中古車業界の信用低下

 このほか、ビッグモーターの店舗が、個人が所有していない架空の車両について保険契約を結んでいたり、営業担当者が保険契約の書類に顧客になりすまして勝手に代筆していたことも判明している。

「虚偽の自動車保険契約に関する事件は、過去に何度もありました。自動車保険を取り扱っていると、販売実績に応じて代理店に付与されるマージンが変わってくるため、成績が維持できない販売店が社員の車両を顧客の車両として登録するなどして、保険契約を偽装するという行為自体は、さほど珍しいことではないといえるでしょう。ただ、それらはあくまで個人店など小規模の店舗が行ってきた例が多く、ビッグモーターほどのメガストアが偽装契約をしていたとすれば、金額もかなりのスケールに膨らむ可能性があります。在庫車両や社員の車両を使って保険契約の書類に顧客になりすまして代筆していた、という話ですが、こういった行為がエスカレートした結果、対象となる車両が事故を起こしたとか、盗難に遭ったように見せかけて、保険金を請求するという犯罪にまで発展した例があります」(同)

 気になるのは、今回の一連のビッグモーターの問題が、中古車業界全体にどのような影響をおよぼす可能性があるのかという点だ。

「さまざまな視点から大きな影響を及ぼす可能性があると考えられますが、最も懸念されるのが中古車業界全体の信頼性とイメージの低下です。今回の件でビッグモーターだけでなく中古車業界全体にグレーな印象を持つ方も増えることが予想されますから、車の買い替えや売却を考えていた人が躊躇することで、販売や買取の動きが鈍ることになるでしょう。いわばとばっちりを食らうようなかたちで、中古車販売店の倒産が増えていくかもしれません。また、業界のイメージ低下によって人材の流出も起こりえます。ただでさえビッグモーターを退職した人材が他業種へ転職している例が多く聞かれるなか、今後は中古車業界全体における人材確保も難しくなってくる可能性があります。

 さらに、ビッグモーターの経営状態が悪化した場合に、大量の在庫車両をキャッシュ化するために一気にオートオークションへ出品されることも予測できます。その場合、一時的に流通車両がだぶつくことによる相場の下落も考えられます。こうした大きな流れのほか、ユーザーに直接的に関わってくるのが、ビッグモーターで車を買った人への影響です。今後のビッグモーターが、保険取り扱い業務の停止や鈑金修理の停止に続いて、車検整備の業務もどうなるか不透明ななか、ユーザーは車検や修理が必要となった際に依頼する整備工場をこれから探して見つけなければいけません。『知らない整備工場へ預けて、またガッカリするのは嫌だから』と、どこに相談したら良いのか迷っている人も多いと聞きます。こうした消費者の不安を払拭するような、透明性の高い取り組みが中古車業界内で活発になればなと、切に願います。

 この他にも、ビッグモーター以外の大手中古車販売会社の株価への影響(すでに株価を下げている企業が現時点で数社見られます)や、損保ジャパンをはじめとした保険会社各社が自動車保険の商品内容を見直し、実質的には値上げとなるような措置が施される可能性も否めません」

(文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター)

 当サイトは2020年1月11日付記事『損保ジャパン、過失割合10対0でも補償金“払い渋り”…右足切断の被害者へ冷酷な対応』で損保ジャパンの企業体質を報じていたが、以下に改めて再掲載する。

※以下、呼称・役職・数字・時間表記等は掲載当時のまま

――以下、再掲載――

 損害保険ジャパン日本興亜(損保ジャパン)の交通事故対応をめぐり、昨年末ごろからインターネット上で被害者を名乗る人たちが続々と声をあげている。被害者への保険金未払い、担当者の不誠実な対応などに関する証言や、事故当時の生々しい写真なども続々と上がり、批判の声が収まる気配を見せていない。

「過失割合10対0でも支払いなし」  今回の騒動は12月12日、Twitter上で「高速道路で追突事故に遭い、相手10:0で示談交渉中、相手方保険会社の損保ジャパンから連絡があり修理費・買い替えにかかる費用も支払わないと連絡があった」との投稿が端緒になった。その後、続々と損保ジャパンの対応に関する批判が相次いでいだ。

「この間のうちのもらい事故、信号停車中に追突されたんですが車の方は全額支払い完了しましたが、治療費8回分は支払えないと言ってきました 弁護士特約を使って戦うか、治療費を自分の保険から出る一時金で賄って終焉させるか、、、。尚、相手方は損保ジャパン」(原文ママ、以下同)

「私の友人。交通事故に遭い損保ジャパンから慰謝料の提示をうけたが、不服だったようで交渉の為、理由等を記入した書類を10月末に送付したが未だ届かず。可否の連絡くらいよこせばいいのに」

 相次ぐ批判に、損保ジャパンは公式Twitterアカウントを承認制に移行。一連の批判に対して「現役損保メン」と名乗る人物が発端となる投稿に対して保険業界のルールをあげたうえで、次のように反論した。

「自動車保険会社のできること・できないことはどこも同じです。なぜなら、保険会社の役割は『加害者が法的に負う範囲を補償する』立場にあるからです。

 今回の件は被害者の方には申し訳ないですが、本当によくあることなのです。加害者の保険会社がどこであろうと被害者は同じ事を言われています。

 これを機に損保ジャパンを悪く言っている方も大勢いらっしゃいますが、違う保険会社の口コミも確認してみてください。どこの保険会社も同じようなことがいっぱい書かれています。

 なぜなら、どこの保険会社も『支払いができるもの』『支払いができないもの』は決まっており、同様の経験をされた方が多くいらっしゃるからです。自動車事故はお金が絡むこともあり、感情的になりやすいのです」

 確かに自動車保険を有効活用するためには専門的な知識がいる。仮に事故に遭って混乱している状況にあっても、法律的なものの見方も必要になる。上記の反論にあるような保険業界の「常識」や「ルール」は、時代の移り変わりに沿った実情に即しているものなのだろうか。
 当サイトでは昨年末から損保ジャパン広報部に今回の炎上の件で見解を問い合わせているが、返答は得られていない。