3日付け共同通信記事は、自動車保険の保険金水増し請求問題に揺れる中古車販売大手ビッグモーターをめぐり、損害保険ジャパンが他の大手損害保険会社に対して、外部調査は不要であると働きかけていたと報じた。損保ジャパンは不正の舞台となったビッグモーターの板金部門(自動車修理部門)に2011年から計37人に上る出向者を送り込んでいた。昨年の不正発覚を受けて三井住友海上保険と東京海上日動火災保険がビッグモーターの修理工場への、自動車事故を起こした保険契約者の仲介を停止していたなか、損保ジャパンのみが再開し、それによってビッグモーターを窓口とする自社の自賠責保険の契約数を増やすなど、両社の関係が深かったことが明らかになっている。すでに金融庁は損保ジャパンに対して行政処分の発令も視野に調査に乗り出しているが、4日発売の週刊誌「フライデー」(講談社)によれば、損保ジャパン社員がビッグモーターの板金部門に対して、損保会社に保険金を水増し請求するために修理車両の傷を深く見せる方法を指南していたといい、損保ジャパンの関与が焦点となりつつある。
「事故車の故障の度合いが水増しされると、損保ジャパンが修理工場に支払う代金が高くなるだけなく、当該の自動車保険の契約者は等級を下げられ支払う保険料が増える可能性もあり、ビッグモーターに出向していた損保ジャパン社員の行為は、自社と自社の契約者の両方に損害を与える。それを損保ジャパン自身が容認していたというのだから、異常としかいいようがない。
損保ジャパンはビッグモーターの店舗を通じて年間数十億円の自賠責保険の収益を上げていたので、要は自社の契約者の利益よりもビッグモーターとの関係を優先していたということ。また契約者の等級が下がれば毎年入ってくる保険料は増えるので、損保ジャパンとしては長期的にみれば一挙両得となる。とはいえ、完全にヤクザの手口で、街金でもあるまいし、日本を代表する一流の大手損害保険会社がここまでひどいことをするのかと驚きを禁じ得ない」(メガバンク関係者)
損保ジャパンの白川儀一社長は当初、ビッグモーターによる不正を認識していた出向者はいないと説明していたが、その後、会社として不正の可能性を把握していたことが判明。金融庁が損保ジャパンに対し重点的な調査に乗り出す事態となっている。
「昨年7月に損保ジャパンは金融庁に対し、ビッグモーター社内で不正の指示はなされていないと虚偽の報告をしている。その同月にビッグモーターの兼重宏行社長(当時)が直々に損保ジャパンを訪問し、その直後に、損保各社が事故車のビッグモーターへの修理仲介を止めていたなかで、損保ジャパンだけが再開している。しかも、通常であれば損保会社は修理工場から提出された見積書を適切かどうか査定するところ、損保ジャパンはビッグモーターの案件については査定を事実上行わずそのまま通す『簡易査定』を行っていた。あの『保険金支払い渋り』で有名な損保ジャパンがここまでやるというのは、いかに損保ジャパンとビッグモーターがズブズブだったのかということを物語っている。今回の不正については共犯だといっていい」(全国紙記者)
損保ジャパンの企業体質について、同社と取引がある大手企業社員はいう。
「大手損保はどこも要求が厳しいが、見積もりの値下げ要求の際、たとえば東京海上は理論武装して非常にロジカルに攻めてくるが、損保ジャパンは『とにかく下げろ』という感じ。また、接待でも東京海上や三井住友の管理職は紳士的で、こちらが嫌な思いをすることは少ないが、損保ジャパンの社員は『俺たちは客』という態度が丸出しで、担当者クラスの社員でも平気で女性のいる店に連れていくことを求めてきたりする。企業体質が非常にビッグモーターと似ている部分があり、両社が親密な関係だと報道で知ったときは『なるほど』と思った」
パワハラや顧客への暴言
ビッグモーターの企業体質をめぐる報道は連日にわたり流れており、改めて説明は不要かもしれない。下請け会社に対して従業員や家族の保有する車の車検時期など個人情報の提供を強く要求したり(7月26日放送『情報ライブ ミヤネ屋』<読売テレビ>より)、無償での作業を強要したり(同)、保険金の不正請求先である損害保険ジャパンに提出した報告書で書き換えを行っていた(同26日付「テレ朝news」記事)ことが明るみに。以前から指摘されていた、税金で整備された店舗前の街路樹に除草剤をまいて枯らしている疑惑については、会見で和泉新社長は「かれこれ10年くらい前の話」と説明していたが、同28日には一部店舗で現在も行われていたことを認めた。
また、役員から店長、店長から現場社員に対するパワハラが常態化。店舗の営業担当者が顧客にローンの仮審査だと説明しながら、勝手に信販会社の本契約を進め、顧客が慌てて解除すると担当者が顧客の自宅に押し掛け、2時間にわたり暴言を浴びせるということも行われていたという(3日付け読売オンライン記事より)。
一部店舗の担当者が顧客への納車時に
<次のお車ヴォクシーにかかってくる環境性能割といって所得税なんですけど納期の際に頂くことは難しいでしょうか?>
(「最初にお話聞いてない費用なんですが」との返信に対し)<僕の説明不足で申し訳ございません ヴォクシーにかかってくる所得税の税金になります>
<お支払い頂くのは難しいでしょうか?>
とするメールを送付していた事例も大きくクローズアップされた。中古車販売店経営者で自動車ライターの桑野将二郎氏はいう。
「環境性能割という税金の仕組みや定義を知らないユーザーも多いと思いますが、これは売買により車両を取得した際にかかる税金です。以前は自動車を取得した際に『自動車取得税』が課税されていましたが、2019年の法改正で廃止され、代わりに導入されたのが環境性能割になります。環境性能割は、購入・取得した車両の燃費性能に応じて税率が変化し、その税率と車両の取得価額をかけた金額が納めるべき環境性能割の税額となります。つまり、燃費性能が優れた車種ほど税率が低くなり、税負担を抑えられることになります。ちなみに電気自動車等(電気自動車、燃料電池車、プラグインハイブリッド車、天然ガス自動車などが含まれる)の場合は非課税となります。
算出方法についてここでは割愛しますが、中古車の場合は自分の購入する車両が環境性能割の対象かどうか、一般社団法人日本中古自動車販売協会連合会の下記のサイトから検索・参照することができます(このサービスは原則国産車のみ対象で、国産車でも車種により検索できない場合があります。検索結果は参考値なので、正確な税額は所轄の自動車税事務所へ問い合わせが必要です)。
つまり、ビッグモーターの店員による環境性能割の案内は、とくに問題なかったかと思われます。ただ、契約時にあらかじめ丁寧な説明がなかったことは少し不親切だったと言えるかもしれません」