スウェーデンGKムショビッチの圧倒的な存在感

後半に入り、アメリカにはモーガンからキャプテンのMFリンジー・ホラン(オリンピック・リヨン・フェミニン)へとアシストする場面も見られる。ホランはゴール前からスピードのある際どいシュートを繰り出すも、やはりスウェーデンのGKムショビッチに止められてしまう。

ムショビッチは、サイドを狙ったキレのあるボールはもちろん、ややトリッキーな高さのあるシュートも難なくカット。その姿には、イングランド1部でシーズン連続優勝しているチェルシー・ウィメンズのGKらしき風格が漂っている。

試合を通じて、ボール保持そして攻撃チャンス共にアメリカ側が主導していた。しかし、モーガンを含めた主要攻撃メンバーがことごとくスウェーデンの壁に囲まれ、ゴール前でボールを奪われるという光景が繰り返される。両国ともに得点できぬまま延長戦へともつれ込んだ。

アメリカは流れを変えるためにモーガンからラピノーへ交代するが、狙った効果を生み出せず。一方でスウェーデンの安定感のあるディフェンスは、試合100分を越えても完璧な状態だった。

2023 FIFA女子ワールドカップ VAR 写真:Getty Images

サドンデスに突入、残酷で冷静なVAR判定

延長戦までもつれ込むも0-0のまま、今W杯では初となるPK戦へ突入したアメリカVSスウェーデン。PKはコイントスでアメリカ先行となり、MFアンディ・サリバン(ワシントン・スピリット)から勝負がスタートした。

サリバンはゴール左隅ギリギリにPKを決める。それを皮切りに両国共に1回目、2回目と成功。そして3回目。またもアメリカが決めた一方、スウェーデンのDFナタリー・ビョルン(エバートン)がボールをクロスバー上空へと蹴り上げてしまい失敗となる。これで3-2。

続く4回目、アメリカはラピノーがボールを浮かせ過ぎてゴールならず。しかしスウェーデンのFWレベッカ・ブロンクビスト(ヴォルフスブルク)がゴールポストぎりぎりに打ち込んだシュートをGKアリッサ・ネイハー(シカゴ・レッドスターズ)が止め、ラピノーの失点をカバーし3-2のまま。

ここで一気に勝負を決めたいアメリカだが、5回目に放たれたボールはクロスバーを大きく越え得点ならず。一方のスウェーデンがゴールを決め3-3とし、サドンデスへと突入した。

スタジアム全体が異様な雰囲気に包まれる中、6回目は両国ともに決め4-4。緊張感と共に迎えた7回目、アメリカのDFケリー・オヘーラ(ゴッサムFC)がゴールポストに当てて失敗すると、スウェーデンのFWリナ・フルティグ(アーセナル・ウィメン)が勝負に出る。

フルティグがゴール中央に向けて放った速さのあるストレートシュートを、GKネイハーがブロック。ボールは上方向に弾かれ宙に舞い、ゴールラインぎりぎりに落下してきたところを再びネイハーが前方へ押し出した。

この際どい瞬間を冷静にジャッジしたのは、現代サッカーの番人とも言える「VAR」だ。一瞬の難しい判定に、選手も観客も息をのんで待つ。そこには、ネイハーがボールを押し出す直前、ゴールラインの内側にすっぽりと入り込んだボールが映っていた。

この瞬間、スウェーデンの勝利が確定(5-4)。甲高いホイッスルの音が鳴り響くと、白のユニフォームを纏った王者アメリカは泣き崩れ、黄色の勝者スウェーデンは天に向かって両腕を振り上げる。まだ信じられないといった表情で喜びを分かち合った。


アメリカ女子代表 写真:Getty Images