ロシアのプロパガンダ情報戦に代表される虚偽情報(ミスインフォメーション/ディスインフォメーション)の手法が、恒常的な現代世界の問題として認識されている。事実とは異なる情報を意図的に拡散させ、人々の情勢認識を混乱させることを狙うものだ。情報量が飛躍的増大した現代世界の特性を逆手にとり、情報の玉石混合状態を意図的に作り出すことによって、何が事実であるかをわからなくさせるのが、虚偽情報の目的だ。

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ただし虚偽情報は、ただ単にいたずらに乱雑に拡散されるものではない。以外にも、虚偽情報には、体系性がある。一定の継続した物語性があれば、虚偽情報拡散の効果が高くなるからだ。「世界はディープステートによって支配されている」「諸悪の根源はアメリカの帝国主義である」「全ての戦争は軍産複合体の陰謀によって引き起こされている」といった、わかりやすい物語が、たいていの虚偽情報の裏側に隠されている。
一つの物語だけで全てを理解したい、という人々の願望を刺激することができれば、事実が何であるかに対する人々の関心を低下させることができる。それが、虚偽情報拡散の手法である。もし「物語」が、ある種のイデオロギー的信条に訴えるものであれば、拡散はいっそう容易だ。たとえば反米主義者は、世界の戦争が全てアメリカによって引き起こされている、という「物語」をいつも求めている。もし誰かがその願望を満たしてくれる言説を発信してくれるのであれば、「物語」渇望者は、喜んで虚偽情報を拡散させる。
ロシア・ウクライナ戦争が継続中の国際情勢において、ロシアによる虚偽情報拡散の活動が、大きな問題として深刻視されている。その具体的な手法は多岐にわたるが、一つのわかりやすい大きな物語は、単純である。
「全て西側が悪い」
虚偽情報の具体例がどれほど多岐にわたっていようとも、公的チャンネルにおいても非公式チャンネルにおいても、この一つのわかりやすい大きな「物語」は、ロシア系の虚偽情報拡散の場合には、不変であると言ってよい。
「物語」が固定されているので、事実が改変される。ロシアの虚偽情報拡散とは、どれほどこの「物語」を適用して世の中の出来事を説明することができるか、というコンテストのようなものだ。「物語」の適用が至上命題なので、事実のほうが捏造される。
ロシアのワグネルがアフリカ諸国に浸透している。ここ数年で特に深刻になっているのが、中央アフリカ共和国、マリ、ブルキナファソといった治安情勢の悪化が甚大な国々において、国連やEUによる国際的な支援を見限り、ワグネルに期待していく傾向が顕著になっていることだ。下級軍人が、マリやブルキナファソで次々とクーデタを起こした。マリ、ブルキナファソなどの隣国のクーデタ政権に影響されるように、7月末には、アメリカやフランスの軍事プレゼンスを受け入れていたニジェールでクーデタが起こった。
これらのクーデタ政権に特徴的なのは、「欧米の植民地主義との戦い」、といった主張をクーデタの正当化に用いていることだ。