ただし、「気候変動の結果、人類は絶滅しないが、更なる温暖化が進行すると、より危険な世界が生まれてくる。特に、社会的な緊張が大幅に増加するだろう」と指摘することも忘れなかった。要するに、新IPCC議長は過激な環境保護グループの終末論に警告を発する一方、国際社会には連帯して環境保護への対応を呼び掛けているわけだ。

ドイツやオーストリアでは「最後の世代」という過激な環境保護グループが台頭してきた。その名称は、「私たちは気候変動の影響を感じた最初の世代であり、それに対して何かが出来る最後の世代だ」と述べたバラク・オバマ元米大統領の2014年9月23日のツイートからとったもの。

「最後の世代」のメンバーには良し悪しは別として強い終末観がある。「今立ち上がらなければ遅い」といった強迫観念だ。社会から批判され、罵倒されれば、逆にその信念と結束を強め、言動を過激化してきている。

参考までに、オーストリア日刊紙クライネ・ツァイトゥングは2023年1月22日、「最後の世代」の運動が宗教的な衝動で動かされている面を指摘している。「彼らは世界の終わりが差し迫っていると信じており、人々に改宗を求めている。歴史的にみて決して新しいことではない。キリスト教とそれによって形成されたヨーロッパの歴史は、世界の終わりとその預言者の歴史でもあった。『地球は燃えている』という叫びは、私たちの文化的記憶に定着している。火と硫黄に沈む様子は、ヨハネの黙示録の世界だ。この地球上の最後の世代であるという考えは、既存の世界の終わりと新しい世界の夜明けを期待した初期のクリスチャンの姿と重なる」と分析している。

IPCC新議長を擁護するつもりはないが、神は40日間の大洪水後、ノアに対して「私はもはや2度と人類を滅ぼさない」と約束し、その契約の印として雲の中から虹を見せた(旧約聖書「創世記」9章)。環境問題で議論が湧く時、神の「ノアへの約束」を思い出すことは冷静さを取り戻す上いいことだ。パニックを避けるべきだ。

地球に住む私たちは環境対策に取り組むべきだ。IPCC議長が指摘しているように、そのための技術と知識は既にある。それらを有効に利用して、地球レベルの視点から問題解決に取り組むべきだろう。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年8月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?