有給休暇の使用期限
有給休暇には使用期限があり、付与された日から2年と決められています。
有給休暇は毎年付与されますが、消化しなかったものは翌年に繰り越しできます。通常は繰り越しした分(使用期限が近いもの)から消化されていく仕組みになっています。 就業規則で使用期限を2年より長くすることはできますが、2年より短くすることはできません。
「有給休暇がとれない」のは違法?有給休暇が労働者の権利と分かっていても「取りたいけど取れない人」はたくさんいます。有給休暇がとれない原因は様々ですが、代表的な理由は下記です。
● 人手不足 仕事の量が多く、休むと休んだ分だけ仕事が溜まりさらに残業が増える。自分が休むと周りの人の負担が増えるから遠慮してしまう。
● 職場で誰も有給休暇を取る人がいない 職場で誰も有給休暇をとる人がおらず、自分だけが有給休暇を取りたいと言い出しづらい。
● 上司が認めてくれない 「こんな理由で有給休暇は認められない」と理由によっては休ませてもらえなかったり、申請の際に理由を記載しないと申請が認められないケースなど。
● 有給休暇がない 「うちは中小企業だから有給休暇がない」とか「パート・アルバイトは有給休暇がない」と言われ、有給休暇の制度がないと思い込んでしまっている。
このような有給休暇を取得できない状況は、違法です。
また、「取りたいけど取れない人」に加えてよくあるのが「取りたくないから取らない人」の存在です。「土日休めば十分」「休んでもやることがない」「好きで休まず仕事をしている」こんな意見もあります。
ただ、有給休暇を取らない人が多ければ多いほど「周りが休まないから自分も休めない」という休むことへの罪悪感が醸成され、ますます有給休暇が取れない文化を作り出してしまいます。特に「取りたくないから取らない人」が管理職であったりするとその影響はさらに大きくなります。
昔は、休まず働くことが評価され長時間労働が美徳とされていました。働いた時間=努力の証という考え方が「有給休暇を取得しないこと」に繋がり、休みが取りづらい企業文化を醸成してきたのではないでしょうか。
しかし「有給休暇がとれない」ことは、もう時代遅れなのです。
有給休暇取得に関して重要なことが「有給休暇の取得義務化」です。 2019年4月に働き方改革関連法案が施行され、最低でも年に5日の有給休暇を取得させることが企業に義務付けられました。
有給休暇の義務化とは?義務化のポイントは以下の2つです。
・年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して有給付与日から1年以内に5日有給を取得させなければならない(正社員に限らずパート・アルバイトも対象)
・義務化の対象となる5日は全休か半休でなければならない(時間休不可) ※付与日数が10日未満の労働者については5日の取得義務はありませんが、有給休暇を取得させなくて良いわけでありませんので誤解しないようにしましょう。
年5日以上の有給休暇を取らせることが出来なかった場合、企業は労働基準法違反で処分を受けます。そのため、企業は従業員が年5日の有給休暇を取得できるように管理しなくてはなりません。
今まで有給休暇の取得が進んでいなかった企業は、取得がなかなか進まないこともあります。
従業員の申請だけで5日の消化が難しい場合は「時期指定」や「計画的付与制度」などの方法があります。いずれも有給休暇を積極的に取得する文化がない企業にとっては有効な方法です。
実施する場合は、就業規則への記載が必要になりますのでルール作りの際は専門家に相談しながら進めましょう。
有給休暇のよくある誤解有給休暇は企業で働く労働者なら誰にでも権利が発生する身近な休暇です。ただ、実際は有給休暇について具体的に分かってない人も多く誤解が生じがちです。
● アルバイトは有給休暇がない パート・アルバイトには有給休暇がないと思っている人がいますが、前述のとおり契約社員でもパート・アルバイトでも条件を満たせば有給休暇の権利は発生します。雇用形態と有給休暇の有無は関係ありません。
● 有給休暇取得には理由が必要 有給休暇の取得の際に理由を求める企業も多いようですが、有給休暇の取得の理由を伝える義務はありません。企業は申請があった際はその理由を問わず取得を認めなければなりません。理由によって有給休暇の取得可否を判断することも違法になります。
● うちには有給休暇がない 就業規則や雇用契約書に「有給休暇なし」と記載したからという理由で「うちには有給休暇がない」という会社があります。有給休暇は労働基準法で定められた権利です。労働基準法に違反する条項を記載しても無効です。
● 管理職に有給休暇はない 管理職は残業代がつかないから有給休暇もないと誤認している人がいます。残業代がつかないとされている管理監督者でも有給休暇は取得する権利があります。管理職が率先して取得することで職場の有給休暇取得の促進を進めるべきでしょう。
● 試用期間は在籍期間にならない 試用期間も在籍期間としてカウントされます。試用期間を含んだ6か月以上の継続勤務と8割以上の出勤があれば有給休暇を取得することができます。
● 会社は欠勤を有給休暇で処理してよい 労働者の事情で欠勤した際に会社が勝手に有給休暇を使って処理してしまうことがあります。
有給休暇をいつ取得するかは労働者が決めることです。労働者の同意を得ずに会社が勝手に有給休暇を消化させてしまうのは違法になります。欠勤等で有給休暇を消化する際は、必ず労働者の同意をとりましょう。
消化できない有給は買い取りしてくれるの?前述したとおり、有給休暇は働かなくても給与がもらえる休暇です。
「それなら休むかわりに有給の分の給料がもらえるのでは?」と考える人もいるかもしれません。 実際、有給休暇が取得できない社員のために良かれと思って買い取り制度を作っている会社もあります。社員の中にも休日よりお金の方が良いと思う人もいますよね。
では従業員が希望するなら有給休暇を買い取ることは許されるのでしょうか?
前提として、有給休暇の本来の目的は「心身のリフレッシュ」です。休ませずに有給休暇を買い取ってしまうと本来の趣旨に反してしまいます。会社が強制することはもちろん、労働者の同意があっても有給休暇の買い取りは原則として違法になります。
ただ、すべての有給休暇の買い取りが違法ではなく、例外的に有給休暇の買い取りが認められるケースが3つあります。
● 退職時に有給休暇が残っている場合 退職時に有給休暇が残っている時は買い取ってもらうことが可能です。退職が決まると引継ぎなどでまとまった有給休暇を取得することが難しい場合もあります。会社側としても十分な引継ぎ期間を取ってもらうためにも残っている有給休暇を買い取る方が良い場合もあります。
● 使用期限が切れた有給休暇 有給休暇には2年の時効があります。消化できないまま時効消滅した有給休暇は使用することができません。そのため買い取りが可能になります。
● 法律で定められた日数を上回る有給休暇 前述したとおり、有給休暇は勤続年数に応じて増えていきます。付与する日数は労働基準法で定められていますが、その規定を上回る日数を付与することも可能です。上回って付与した分の有給休暇は買い取っても問題ありません。
このように、買い取りは例外措置のような扱いになっています。
有給の買い取り価格はいくら?「自分の有給休暇はいくらになるの?」と気になる人も多いでしょう。 有給休暇の買い取りは、法律で決められた制度ではないため買い取り金額の決め方にはルールがありません。
有給休暇は、主に下記の3つのいずれかを元に計算します。 どの方法で計算するかは、就業規則に定めておかなければなりません。
・通常の賃金 ・平均賃金 ・標準報酬月額
有給休暇を買い取る際の金額は法律で定められていません。そのため、上記の方法以外にも企業は任意で金額を定めることも可能です。
有給休暇を買い取る場合は、あらかじめ就業規則に規定を設けておく必要があります。
使いきれなかった有給休暇の買い取りを希望する場合は、まずは就業規則を確認してみましょう。いずれの場合も買い取りが認められているだけであり、会社が買い取らなければならないと決められているわけではないので、就業規則の確認や会社側との交渉が必要になります。
繁忙期の有給休暇の取得を拒否できる?有給休暇を取得させる必要があることは分かっていても、現実問題として繁忙期に休まれると仕事が回らないと悩む経営者も多いと思います。
有給休暇の取得について、会社には「時季変更権」が認められています。 時季変更権とは、社員から申請があった有給休暇の取得時期を変更できる権利です。
時季変更権を「有給休暇の取得を拒否する権利」と勘違いしている人がいますが、あくまで有給休暇の取得時期を変更するものであり、取得そのものを拒否することは出来ません。時季変更権を行使する場合は必ず別の日に有給休暇を与える必要があります。
では、繁忙期や人手不足を理由に時季変更権を行使することは出来るのでしょうか?
会社側が人員の手配など有給休暇を取得させるための最大限の努力をした上で、どうしても事業に大きな影響が出る場合のみ時季変更権が認められます。 単に「人手不足だから」「忙しいから」という理由でむやみやたらに時季変更権を行使することはできません。代替要員の確保など会社側は出来る限りの努力をする必要があります。
時季変更権が認められやすいケースは下記です。
・代替要員が確保できない ・繁忙期に取得希望者が重なった ・研修予定日と有給休暇希望日が重なった ・長期間の有給休暇
これらも、前提として会社側が代替要員の確保など必要な努力を最大限に行った場合に認められます。時季変更権の行使には合理的な理由が求められます。
仮に業務に支障があったとしても「時季変更権」を行使できないケースがあります。
いわゆる「退職時の有給消化」です。
退職時に未消化の有給休暇を取得したいと希望する従業員は多く、場合によっては退職日までの全ての日を有給休暇に当てたいと希望することもあります。
会社側としては「引継ぎが必要である」として時季変更権を行使したい場面ですが、この場合、会社側は有給休暇取得を拒否できません。
退職時は残りの勤務日数に限りがあり、別の日に有給休暇を取得することが難しいためです。
時季変更権の行使はトラブルになりやすいため慎重に行う必要があります。行使する際は、従業員と話し合い慎重に進めるようにしましょう。
まとめ本稿で書いた有給休暇の取得は労働者として当然の権利ですが、その一方で自分も周囲も気持ち良く休みが取れるようにするためには気使いも大切です。職場の負担を減らすためになるべく早く申請したり、休み中の引継ぎ事項をまとめておくなどの工夫をしましょう。
会社側も有給休暇の制度について正しく理解し、有給休暇を取得しやすい労働環境作りを行い有給休暇の取得を推進していきましょう。
「休める職場」を作るためには制度の整備だけでなく、業務効率化や属人化の解消といった働き方の改革も必要になります。企業側・労働者側双方にとって働きやすい職場環境を構築すべきです。
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桐生 由紀 社会保険労務士 大学卒業後、大手財閥系企業の管理部門業務に従事。第1子出産を機に専業主婦になるが、配偶者の急死により二人の子供を抱えてシングルマザーになる。Authense法律事務所に再就職し、法律事務所と弁護士ドットコムの管理部門の構築を牽引する。その後、Authense社会保険労務士法人を設立し代表に就任。現在は、弁護士法人でHR部門を統括しつつ、社会保険労務士法人の代表として複数のクライアントを支援している。プライベートでは男子3人の母。 。
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年8月2日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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