不可能の象徴としての飛行機、生存本能さえも凌駕する人間の美しさ
意外にも文字の読み書きを覚えたのは遅く、幼いころは無口な性格で、一日中家にこもってぼーっと過ごすことも多かったという。ところがある日、家の窓から見えた飛行機に心を奪われ、ライト兄弟が見たであろう深淵そのものに憧れを抱くように。MADARA MANJIの作家性、およびパーソナリティーに共通する人間性に対する尽きることのない興味の根底にあるものとは。

MANJI まず、飛行機を初めて見たときに「え、なんであれ飛んでんの…?」ってびっくりして(笑)。車とかもね、子どもながらにすごいなぁとは感じていたんですけど、車が走る理屈はなんとなく想像できるというか。でも、見るからに重そうだし、車って飛びそうにはない感じじゃないですか。その何倍もデカい金属の塊が空を飛んでいるんだから、理解がまるで追いつかなくて、当時の自分にとって飛行機は不可能の象徴って感じでした。
昔は飛行機で人間が空を飛ぶって科学的に難しいことだと考えられていて、ライト兄弟による世界初の有人動力飛行って、世間では実現不可だと言われていたような時代の話なんです。彼らはその挑戦と引き換えにとんでもない悲惨な生活を送っていて……。
有人飛行を成し遂げたにもかかわらず、いろいろあって名誉や大金を得ることもなく、兄のウィルバーは感染症を患って失意のなかで亡くなっているし、弟のオービルは晩年にギリギリ名誉の回復こそできたけれど、大変な人生を送っていて。なぜライト兄弟がそこまでして空を飛びたかったのか気になって仕方がないんですよ、俺は。
空を飛ぶためにたくさんのものを犠牲にして、過酷な挑戦を続けた彼らの人生って側から見れば魅力的ですよね。俺たちはどうしたって精神性と同時に、生存本能が記録されたDNAを持っているのに、自らの命を天秤に掛けても、なお凌駕する想像力と探究心の力に突き動かされている人間の生き様はカッコよくて美しいと思う。
なぜなら想像力は人間特有の力で、その行使は人間的な姿だから。でも、本人たちが得たものはよくわからないというか、どういう気分だったんだろうと。こういう類の歴史上の人物って結構多いんですけど、彼らの想像力と探究心の正体がすごく気になるんです。一体どんな景色に辿り着いたのかを知りたい。活動を続けるうえでのモチベーションとしても、いつか自分もそういう次元にタッチして、深淵に触れてみたいっていうのがデカいっすね。

MANJI 飛行機だけじゃなくて、すべてのものがいつかの時代の不可能を超えて、今ここに存在しているんですよね。江戸時代にタイムスリップしてiPhoneの話をしたところで「そんなものできるわけないじゃん」って一蹴されるだけだろうし、インターネットや今着ているこの衣類だって全部そう。
たまに息抜きで屋上に出たときに考えることがあるんですけど、視界全部に広がるすべての街にライフラインが通っているこの有様って本当にすごいことじゃないですか。でもだいたいの人が、建物にはどういう素材が使われていて、どんなふうに作られているのかみたいなことを知識としてなんとなく知っている。
ところが、一人で無人島に連れて行かれて、街を再現してくれと頼まれたとしたら、ほとんどの人が不可能だと言って断ると思う。つまり、人類史というものは、不可能を可能にしてきた人々の歴史で、その膨大な積み重ねが現時点での人類史を形作っているんですよね。

MANJI そういうことをいちばん最初に感じたのが飛行機でした。子供のころの話なので、ライト兄弟の飛行から100年も経ってなかったんですよ。ましてや、それから半世紀と少しあとに人類は宇宙にまで辿り着いている。
飛行機の発明が無謀な挑戦だと言われていた時代から考えたら、宇宙飛行なんて不可能どころの話ではないと思うんです。でも、人類は不可能を可能にする力を持っているから、今ではもう飛行機の存在を疑う人はいないし、民間人による宇宙旅行も珍しい話ではなくなってきている。やっぱり俺はこういう人間の性質にすごく魅力を感じますね。
不可能を可能にする力が人間にはあって、俺はそれが美しいと感じる。作品を作ったり、日々の暮らしのなかで「もうダメだ」とか「できっこない」って挫けそうになることも多いけど、飛行機で空を飛ぶことに比べたら、俺の不可能なんて余裕だといつも思うんです。
【インタビュー後編】(7月31日17時頃公開予定)
【MADARA MANJI展覧会情報】
グループ展
『Synergy』
【開催期間】2023.08.02 wed. – 08.13 Sun. 月曜日定休 11:00 – 19:00
【会場】YOD TOKYO
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前4-26-35

■MADARA MANJI
京都の職人に弟子入りし金属加工の基礎技術を学び、数年間の修行の後に独立。独学で杢目金の技術を習得し、その技術を用いた立体作品の制作を行う。
Twitter:@MadaraManji
Instagram:@madara_manji
HP:金属彫刻作家まだらまんじ. MADARA MANJI official Web site
文=浅香麻亜弥(トカナ編集部)
提供元・TOCANA
【関連記事】
・初心者が投資を始めるなら、何がおすすめ?
・航空機から撮影された「UFO動画」が公開される! “フェニックスの光”に似た奇妙な4つの発光体
・有名百貨店・デパートどこの株主優待がおすすめ?
・ネッシーは巨大ウナギではない! 統計的調査結果から数学者が正体を予測
・積立NISAで月1万円を投資した場合の利益はいくらになる?