例えば、果物の輸入キウイフルーツはつい最近まで1個110円程度だったのが、安い店でも160円で、円安がもろに響いています。先日、お見舞いのフルーツゼリーを買ったら、1箱6個で3500円もしました。以前は2000円台でしたか。1個300円だったのが500円に値上がりしていました。

日銀の政策修正について、専門家の中には「想定外だった」(大和証券系)という人もいます。私はブログで「日銀は副総裁を使って金融政策の転換を示唆したとみる」(7月8日)と指摘しました。私にとっては「想定内」の政策修正です。

日経が内田副総裁との単独インタビューを大きく報じ、大きな解説記事をセットで載せ、その第1行目の表現はずばり「日銀が10年続けてきた異次元緩和の出口が近づきつつある」でした。日銀が事前に市場にシグナルを送ろうとしていた。そう考えた人は私を含めて多かったでしょう。

「実質的にYCC(長短金利操作付き金融緩和)の撤廃に近い決定だとみる。長期金利の上限は形骸化する。また、日銀は円安の抑制に動いた」(三菱銀行系)と、ずばりと直球を投げた専門家もいます。正論です。

米欧がインフレ抑制に全力投球し、米国は利上げの最終段階に入ったのに、日本だけが動かないわけにはいかなくなった。物価高の要因のうち、海外からの資源高の影響をできるだけ防ぐには円安阻止しかない。

とにかく日銀総裁の発言は悪文です。「緩和の縮小ではない。柔軟化することで政策の持続性を高め、目標へ到達できる確率を高める措置だ」という。「柔軟化」という金融造語はこれまであったのだろうか。

日銀は物価見通しを大幅に引き上げ、「23年度は2.5%、24年度は1.9%、25年度は1.6%」と修正しました。それなのに「2%目標の実現を見通せる状況にいたっていない」と、総裁は説明しました。実質で3、4%のインフレなのに「2%目標はまだ達成していない」という。

さらに、物価を1%程度、引き下げている政府の抑制策が廃止したら、1%程度、物価は上がります。24、25年度の物価見通しは、それを含んだうえでの数字なのか、肝心なことを説明していません。

とにかく金利を上げいき、景気が悪くなり、物価が2%を大きく割るようになったら、その段階で金利を引き下げに転じればいい。金融政策はそういう意味での「柔軟性」が必要なのです。

また、長期金利の上限を1%にしたのに、総裁は「1%まで上昇するとは想定していない。念のためのキャップとして1%とした」と、説明しました。金利の動きは市場に委ねるのが筋で、「日銀は1%までは想定していない」という必要は全くないのです。

日銀が沈黙している財政ファイナンス(国債の実質的な日銀引き受け)は、長期金利が上がっていけば、利払い費が増え、国債発行を抑制する効果があります。政府、日銀は「26年度には基礎的財政収支は黒字に転換」などと、実現が難しいスローガンを掲げるのではなく、もっとまともな財政健全化計画を示すべきです。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年7月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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