同時に、「ロシアの穀物と肥料の世界市場への輸出に対する制裁解除に対する合意条項は履行されなかった。さらに、必要としている最貧国に鉱物、肥料を無料で供給するというロシアの試みにも障壁が設けられた。これらすべての事実を考慮し、本来の人道的目的を果たせていない穀物取引を継続することにもはや意味はないと判断した」と説明している。

その一方、プーチン氏は、「今年も記録的な収穫量が見込まれることから、わが国は商業ベースでも無償ベースでもウクライナ穀物に取って代わることができることを保証したい」と述べることを忘れていない。ちなみに、プーチン大統領によると、ロシアのアフリカ諸国との貿易額が昨年、ほぼ180億ドルに達したという。

オーストリア国営放送のモスクワ駐在のパウル・クリサイ特派員は27日、「プーチン氏は穀物不足で困窮するアフリカ諸国には追加費用なしで支援する用意があることを提示する一方、アフリカ諸国からは政治的支援を要求している」と報じている。

プーチン氏が願う政治的支援は、ロシアのウクライナ侵攻に対する国際社会からの批判に直面し、孤立化してきたロシアへの理解と欧米諸国の反ロシア政策への批判だろう。ウクライナ戦争が勃発して以来、中国、イラン、北朝鮮など数少ない国しかロシアを支持していない。それだけに、アフリカ諸国の政治支援がこれまで以上に必要となってきたわけだ。「米国一極支配」に対抗するという立場からアフリカ諸国との連携を演出することで「多極主義」をアピールできる狙いがあるのだろう。

プーチン大統領はサミットに参加したアフリカ諸国の首脳と二国間会談を積極的に行っている。第2回ロシア・アフリカ首脳会談では協力の主要分野に関する首脳会議の最終宣言やその他の文書を採択する。また、6月にサンクトペテルブルクで立ち上げた「アフリカ平和イニシアチブ」の中で、ウクライナ情勢解決のための可能な方法について引き続き議論する予定だ。

ちなみに、ロシアがウクライナ戦争を始めて以来、モスクワを訪問する国家首脳級ゲストは限られてきた。その一方、ウクライナの子供たちの拉致問題で国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪容疑で逮捕状が出ているプーチン氏は外国訪問が益々難しくなってきた。最近では、南アフリカで8月下旬に開催予定の新興5カ国(BRICS)の首脳会議に自ら参加できず、ラブロフ外相を代行に派遣することを決めたばかりだ。

いずれにしても、プーチン大統領は、世界の穀倉地ウクライナで収穫された穀物をウクライナ人には与えず、数百万人以上のウクライナ人を飢餓させたスターリン時代の食糧政策を再現している。プーチン氏もスターリンも食糧を武器に利用している。両者の違いは、スターリンはウクライナ産食糧を奪った略奪者だったが、プーチン氏はウクライナ産穀物を輸出させず、ロシア産の穀物を売り込む悪辣なビジネスマンだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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