黒坂岳央です。

「元〇〇」と「現役〇〇」という肩書きがある。経歴詐称ではなく事実としてのPRなら短時間でビジネスの経歴や実績を相手に伝える効果がある。堂々と有効に使うべきだと思っている。

しかし、「元」と「現役」とでは天地ほど大きな力の差がある。特に仕事についていえば、「現役」を離れ、数年も経過すればほとんど白紙に近い状態に力が衰えてしまう。スキルや仕事を考える上では「現役」を辞めてはいけないのだ。

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仕事をやめると知識もスキルも一気に錆びつく

これは実体験の話だが、親族で会社経営をしている夫婦がいる。夫は今でも現役バリバリの経営者なのだが、妻は「家庭に専念したい」と退職済だ。

昔は夫婦ともに経営戦略を話し合ったり、妻のアドバイスで夫がマーケティング案を実践するなど、うまく両輪が回っていた時期があった。しかし、最近彼らと会ってビジネスの話を聞くと、夫が妻のアドバイスをまったく聞き入れなくなってしまっていたことがわかった。やり取りをよく観察してみると、ことごとく妻のアドバイスが「ズレている」ということがわかった。

「昔、大きな売上に繋がったマーケティング施策を今やってはどうか?」といった話や、もう退職した社員の強みや弱みについて延々と論じたり、インフレの現代においてデフレ時期の施策を話すなど、今はまったく通用しない昔話を中心にしか妻が話をしないのである。

当然だが、昔は有効だったが今は通用しない話をしても何の意味がない。仕事を辞めてしまったことで、もはや共同経営者としての手腕は完全に失われてしまい、かつて夫はよく妻に意見を聞いたりしていたがもう完全に頼りにしていないことが傍から両者のやり取りを見ていてよく伝わってきた。

仕事をやめるとビジネスで必要な知識もスキルも一気に錆びついてしまう。件の妻の話について言えば、退職したタイミングで完全に時が止まったままなのだ。しかし会社経営など、ビジネス環境が激しく変化する中で意思決定をしなければいけない立場である。環境認識を間違えると会社は転覆するので「元経営者」という肩書や実績は何ら役に立つことはないのである。辞めたら未経験者と同じになるのだ。