■“わかる”に至るには自身で考え続ける時間を

今、何かわからないことがあると皆さんすぐにスマホやパソコンで検索しますね。コスパ、タイパが言われる時代、効率を求めるのもわかります。けれど、それで得た“情報”は腹に落ちることはない。ましてや、人は何のために生きるのか、幸せとは何なのか、そうした人生の本質はどこで調べるものでもなく、自身で考えていくしかありません。考えて考えて腹に落ちたことは決して忘れません。

禅宗や仏教的思想全般も別の効率性を持っています。例えば茶室や庭も“今そこにあるもの”で造ります。いかに生かすかということです。当寺の庭園には祖父が、ダム建設で沈む村から運んだ石や、京都の市電の敷石を使っています。私は修行中、掃き集めた落ち葉を「このゴミはどうしますか?」と言って、先輩に叱られたこともありました。枯れ葉や枝は焚付けに、そこに混ざっていた土は道の轍を埋めるのに使える。ゴミとして捨てるのではなく生かす。それが我々にとっての効率性です。

禅語の一つに「無用の用」という言葉があります。役に立たないと思われていたものにこそ、大切な役割があるという意味です。ウイスキーをブレンドするにも、良い樽のものだけ集めても上質な酒にならないと言います。クセが強い不出来なものを少し混ぜると美味しい酒になる。職場などでの人間関係も同様だと思います。

空っぽのコップということを考えてみて下さい。あなたが喉が渇いている時、水を注ぐべきコップが既に別の液体で一杯だったなら、水はあふれ、コップの外を流れていくだけです。空のコップならば必要な量の水を入れられます。人の心や頭も同じ。単なる思い込みや手軽に得られる雑多な情報で一杯になっていると、本当に必要なものが入りません。

自身の心を解き、生きていく上では不要な情報を除く時間や機会を意識的に持つことが大切だと思います。坐禅体験などでもよいですし、よく知られる禅問答に触れて自分なりの答えをしばし考えてみるのもよいでしょう。

正解は見つからなくていい。インスタントな情報源から離れて自身の心の深みに降り、考える時間こそが大切なのです。

文/秋川ゆか 撮影/渡部健五

提供元・男の隠れ家デジタル

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