世の中には星の数ほどの投資信託があふれている。2016年10月末の時点で公募投資信託だけで6117本もあるが、その中身は千差万別だ。
銀行の金融商品販売に携わる私は、これまで数多くの投資信託を販売してきたが、これまでの経験の中で「この投資信託だけは販売したくない」と思うものがある。その一つが、テーマ型と呼ばれるタイプの投資信託「テーマ型ファンド」だ。しかし、そんな投資信託に限って購入を希望されるお客様が意外と多い。
「テーマ型ファンド」とは、文字通り特定のテーマに関連した企業の株式を投資対象としたものだ。過去にはITやバイオ、そして最近ではロボットやAIなどがある。実は私自身「これは良い」と思って積極的に販売した過去がある。そんな私が恥を忍んで告白する。テーマ型ファンドの末路は実に悲惨である。
テーマ型ファンドが「割高」でも売れる理由
「う~ん、良い投資信託だとは思うけれど、こんなに基準価額が高いと買う気にはならないな。もう少し、安くなれば考えるよ」
日本の投資家は逆張りを好む。株価が上昇しているような局面では積極的な売買は手控え、株価が大きく下落したところで買いを入れる。そんな投資スタイルを貫いている。投資信託においてもそれは同じだ。多くの投資家は基準価額の高い投資信託を敬遠する。
ところが、例外がある。それがテーマ型ファンドである。最近では「ロボット」や「AI」と名の付く投資信託が売れている。なるほど、メディアはこぞって、こうした旬なテーマを連日のように取り上げている。テーマ型ファンドは、銀行員がセールスしなくとも、お客様のほうから購入の申し出があるほど人気が高い。株式を投資対象とした投資信託は「高くて買えない」と切り捨てるお客様でも、テーマ型ファンドに限っては割高にもかかわらず喜んで購入する。それはなぜだろうか?
先日、高齢者のお客様とこんなやりとりがあった。
「ロボット、人気みたいだね。証券会社が買え買えってうるさいんだよ。どうせ買うなら、いつもお世話になってる貴方から買おうと思ってさ」ありがたい話ではあるが、どうにも私は素直にこの話に乗れない。
「それにしても、なぜこんなタイミングでロボットなんですか? 逆張り志向でいつも割安なタイミングで投資されるのに?」
「この投資信託は運用も順調で分配金を出しているし、基準価額も下がっているから、いまが買い時だと思ったんだよ」
なるほど、確かにこのテーマ型ファンドの基準価額は下がっている。割安だと「錯覚」されるのも無理はない。
「ええ、確かに基準価額は下がっていますね。では、この投資信託の主要な組入銘柄の株価チャートを見てみましょうか。キーエンス、安川電機、日本電産……どうですか? 割安ですか?」実はこれらの銘柄はいずれも上場来高値や過去数年来の高値を付けていた銘柄ばかりなのだ。
「なんだって?」お客様は目を丸くして言った。「こんな高値圏の株なんて買えるわけないじゃないか! ありがとう。騙されるところだったよ」
決して騙すつもりではないのだろうが、テーマ型ファンドには実に「巧妙なワナ」が仕掛けられているのも事実だ。つまり、高値圏の銘柄に投資しながらも、それを感じさせないというワナだ。それが、分配金だ。分配金を出すことで基準価額は下がる。個別株の値動きまでチェックしていないお客様は、まんまと「割安」と誤解してしまうのである。
テーマ型ファンドは「バラ色の未来」を語る?
テーマ型ファンドの最大の罪は「バラ色の未来」を投資家にイメージさせることだ。
自動運転の時代がやってくる。ビッグデータやAIが世の中を変える。IoTですべてのモノがインターネットにつながる。そんな「バラ色の未来」のイメージが、多くの投資家の冷静な判断力を奪ってしまう。たとえ悪材料が出たとしても、投資家はまだ「バラ色の未来」を信じ続けるのだ。それが妄想であるにもかかわらず。
ブラジルでサッカーワールドカップ、そしてオリンピックが開催される。一体どれほど多くの投資家がこのセールストークに踊らされたことだろう。多くの銀行員が「ブラジルのバラ色の未来」を語り、お客様に夢を与えた。ブラジルの首都の名前すら知らない銀行員が「ブラジルのバラ色の未来」を語る様はこっけい以外の何ものでもなかった。
ブラジルがこけると、今度はバイオやヘルスケアが格好のテーマとなった。高齢化社会を迎え、医療や福祉に多くの人が感心を持つようになる……多くのお客様がこのテーマに「バラ色の未来」をイメージした。世界の人口増加が医薬品業界にプラスになる。高齢化や新興国の購買力の高まりは一層医薬品の需要増につながる。相次ぐ医薬品業界のM&Aの流れに乗り、確かにこの分野の「テーマ型ファンド」は大きく値上がりした。
だが、幸運はいつまでも続かなかった。米国ではオバマケアが失敗し、高額な医薬品価格が批判の的となり、いまや関連銘柄の株価は指数に見劣りする有様である。多くの投資家がイメージした「バラ色の未来」には大きな落とし穴が待ち受けていたのだ。
私が過去の失敗から学んだ教訓
「テーマ型ファンド」は現在も良く売れる投資信託である。こんなことを書いている私自身も、バイオやヘルスケアの「テーマ型ファンド」をたくさん販売した。実際、その時には運用会社のパンフレットに書かれている「バラ色の未来」が本当に実現すると信じていた。
その後、医薬品セクターの株価に変調が現れたときにも、ことの重大さを客観的に見ることができなかった。それでも、株価はすぐに回復すると信じていた。なんの根拠もないにもかかわらず、パンフレットの「バラ色の未来」を信じていたのだ。
「テーマ型ファンド」はすでに高値圏にある株を買い付けるようなものだ。もし、個別銘柄の株価チャートを冷静に見たなら、あなたはきっとその株を買わないだろう。それでも、美しく仕上げられたパンフレットを見て、その投資信託に惚れ込んでしまうのだ。惚れ込んだら最後、もはや相場が発する下落の変調すら聞こえなくなってしまう。
それでも、あえて「テーマ型ファンド」を買うのであれば短期投資を心がけるべきだ。高値圏で買う「テーマ型ファンド」は売り時を逃すと、長期間塩漬けになる可能性が高いことを忘れてはならない。私はこんなモノは二度と買いたくもないし、お客様に薦めたいとも思わない。それが私自身が過去の失敗から学んだ教訓である。
文・或る銀行員/ZUU online
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