そのとおり。本来なら当たり前だが、台湾有事は日本有事(日米安保5条事態)ではなく極東有事(6条事態)である。この論点についても、以前、アゴラで指摘し、前傾拙著最新刊でも詳論したので、ここでは繰り返さない。
相変わらず、一つ覚えのごとく「台湾有事は日本有事」と合唱する手合が少なくないが、ようやく永田町でも理解が浸透してきた。
重ねて言えば、令和5年2月15日の衆議院予算委員会で、石破茂委員(元防衛相)が、岸田文雄総理にこう質した。
私は、作戦というものを念頭に置いて、朝鮮半島と台湾と、起こる有事は全く違いますからね。(中略)台湾有事だけれども五条事態(日本有事・潮注記)にならないということはあり得るのです。朝鮮半島有事のときは朝鮮国連軍の地位協定が動くのです。事前協議の在り方が全く違うはずであります。作戦を念頭に置いた防衛力整備の体制というものが必要だというふうに考えております。(議事録より)
だが、質問時間が長かったこともあり、岸田総理は「あと、残りにつきましては、ちょっと答弁、十分でなかったかもしれませんが(以下略)」と述べるに留まった。いずれにせよ、複数の元防衛相が問題認識を共有するに至ったことは喜ばしい。
だが、手放しで喜ぶ気にはなれない。なぜなら、フジ「日曜報道」は、この日、「平和安全法制」の見出しで、上から「武力攻撃事態」「武力攻撃予測事態」「存立危機事態」「重要影響事態」「グレーゾーン事態」「平時」の6つの「事態」(?)を掲げ、その左に、下から上へと「↑」を引いたフリップを掲げて、解説(?)したからである。
それを見た私は「フジテレビは相変わらず平和安全法制を理解していない」とツイートしたが、案の定、暖簾に腕押し。失礼ながら、大半の視聴者も理解していないとみた。
フジテレビは相変わらず平和安全法制を理解していない。 pic.twitter.com/2PcP78p2qP
— 潮匡人 (@ushiomasato) July 15, 2023
一般読者のため、「防衛白書」から引こう。
「武力攻撃予測事態」とは、「武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」である。
他方、「存立危機事態」とは、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」である。
あえて「事態」の烈度(激しさ)で上下をつけるなら、フリップとは逆になろう。念のため補足すれば、「武力攻撃予測事態」では認められない自衛隊の防衛出動が「存立危機事態」では可能となる。さらに言えば、平和安全法制には、「グレーゾーン事態」とも「平時」とも書かれていない。いや、概念としては存在すると反論する向きもあろうが、平和安全法制は、いわゆるグレーゾーン事態に関して、なんら法整備していない。にもかかわらず、注釈なく明記するのは見識を欠く。
蛇足ながら、シミュレーションでは、大規模サイバー攻撃の発生も想定。「政府」は「国家安保会議」で、(攻撃元のサーバーに侵入して破壊措置を取る)「能動的サイバー防衛」(アクティブ・サイバー・ディフェンス)の発動を決定した。
ところが、上記フジ番組では、〝ご意見番〞の橋下徹が「僕は(アクティブ・サイバー・ディフェンスではなく)アクティブ・サイバー・オフェンスだと思う」と述べ、「サイバー(攻撃)に対して武力攻撃をやってよいのか」と批判。「ウクライナ侵攻のあの状況を見たときに、国会議員の状況を見ると、もうイケイケの話ばっかりが出てくるんですよ」(?)、「国民保護の議論が抜け落ちている」(?)とも批判(?)していた。
台湾有事シミュレーションを取り上げるというから、久しぶりに視聴したが、相変わらずの番組姿勢に心が折れた。この枠では、かつて竹村健一、堺屋太一、渡部昇一、谷沢永一の4ピン」ら錚々たる論客が活躍していたが、令和の今や、見る影もない…。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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