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去る7月15日、一般社団法人「日本戦略研究フォーラム」が、台湾や尖閣諸島(沖縄県石垣市)での有事を想定したシミュレーションを都内で開催した。首相役の小野寺五典・元防衛相ら国会議員10人に加え、元将官を含む政府高官OB、米連邦政府職員OBらに加え、この日は台湾のシンクタンク関係者も初参加した。
シミュレーションを通して、サイバー攻撃や偽情報などの前哨戦から始まる有事発生に対し、閣僚役の議員が対応することで課題を探ったという。翌日付「産経新聞」朝刊が詳しく報じたのに加え、7月16日放送のフジテレビ「日曜報道」が当日の模様を映像とともに報じた。
それらによると、シミュレーションは、昨年改定された「安保3文書」に基づき5年間の防衛力強化が完了したとの仮定に基づき、2027年1月、中台情勢が緊迫化し、尖閣へ中国漁船が「機関故障による漂着」を名目に上陸し、中国海警局船に護送された浚渫(しゅんせつ)船10隻が埋め立て作業を始めたと想定。「関係閣僚」が「国家安全保障会議」で協議するなか、中国海警船の発砲により、海保巡視船の乗員(保安官)が多数死傷との状況が伝えられた。
ところが、「海上保安庁長官」(役を務めた奥島高弘・元海保長官)が、「海上保安庁で対処できます」と断言。これを受け、(海保を所管する)「国土交通相」が「軍事的手段で解決しないという国家意思を示す」として、海上自衛隊ではなく海上保安庁で対応可能との考えを示した。
以前、アゴラで指摘したとおり(拙著最新刊『ウクライナの教訓』採録)、実際ありそうな展開である。この日の「日本政府」は武力攻撃予測事態の認定すら躊躇した。
シミュレーションでは、台湾周辺で中国軍のミサイル演習や中国軍機の中間線越えが激増し、台湾が「非常事態宣言」を発令したとも想定。台湾から船による避難者が多数生じるなかで、どう入国管理を行なうべきかが問題となった。また、自衛隊の部隊展開をスムーズにすべく「事態認定」を行うと、民間の航空機・船舶による避難輸送が難しくなるなどの課題が浮かび上がった。
翌朝放送のフジテレビ「日曜報道」には、総理役を務めた小野寺五典・元防衛相がスタジオ出演、当日のシミュレーションで、日米間の「事前協議」が課題となった経緯を明かしながら、「おそらく実際の状況になって、日本の総理大臣がいちばん悩むのは、この(安保条約)六条によって日本の米軍基地を使わせる判断、これが重いと思います」と述べた。