チュニジアの首都チュニスで16日、欧州から欧州連合(EU)のウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長、オランダのルッテ首相、イタリアのメローニ首相、チュニジアからはカイス・サイード大統領が参加し、北アフリカから地中海を経由して欧州に殺到する不法難民、移民問題、密航業者対策で協力を強化する一方、経済不況下にあるチュニジアに対し、EU委員会は最大9億ユーロの財政支援を実施することなどが明記された覚書の署名式に立ち会った。

EU・チュニジア間の移民・難民対策に関連する覚書の署名式に参加した各国首脳(2023年7月16日、EU委員会公式サイトから)
フォン・デア・ライエン委員長によると、EU・チュニジア覚書には、2023年6月11日に共同発表された「包括的パートナーシップパッケージ」の「5つの柱」が盛り込まれている。具体的には、①EUの財政支援、②EUとチュニジア間の経済関係の強化、③グリーンエネルギーに関する協力、④正式な移民促進、⑤人的交流の活性化等だ。
EUは6月8日の内相理事会で、移民・難民受け入れの負担を分担することで合意した。イタリアやギリシャなど地中海沿岸国は海から渡ってくる難民への対応で他の国々の支援を求めた。具体的には、各国が受け入れる移民・難民の人数枠を設けるが、受け入れを拒否する国はその代わりに、受け入れ国に1人当たり約2万ユーロの現金や資材、人材を提供すると定めている(EU加盟国の中ではハンガリーは難民の受け入れ枠を拒否している)。
同時に、EUは北東アフリカから殺到する不法難民対策として、密航業者などの拠点となっているチュニジアに対し、財政支援のひきかえとして、地中海を横断して欧州入りする不法難民・移民対策の強化を強く要請してきた。特に、チュニジア経由で不法難民が殺到するイタリアでは、チュニジアから密航船がイタリアに到着する前に密航移民を阻止するために、その対策をチュニジア政府に強く申し出てきた経緯がある。
メローニ首相は同覚書の署名を歓迎し、「非常に重要な目標が達成された」と強調し、他の北アフリカ諸国とも同様の協定を締結したい意向を明らかにした。イタリアでは今年に入り移民数が急増、同国内務省によると、今年初めからイタリアの海岸に到着した難民数は7万5000人以上であり、前年同期の約3万1900人を大きく上回っている。
一方、サイード大統領は、「チュニジアが欧州の国境警備隊となるつもりはない」とこれまで重ねて主張してきたが、今回のEUとの合意に関しては「迅速に実施する決意だ」と述べている。
人権団体の情報によると、チュニジアではアフリカ諸国からの難民たちは警察によって砂漠地帯に強制的に追放されている。多くの難民たちはリビア東部やアルジェリア西部の過酷な地域に追われているという。ちなみに、チュニジア東部の湾岸都市スファックスはアフリカ諸国からの難民が欧州に向けて出航する拠点だが、そこの難民収容所は過密状況だという。スファックスはイタリアのランペドゥーザ島まで約130キロメートルしか離れていない。