上告人が戸籍上は男性であることを認識している同僚の女性職員が上告人と同じ女性トイレを使用することに対して抱く可能性があり得る違和感・羞恥心等は、トランスジェンダーに対する理解が必ずしも十分でないことによるところが 少なくないと思われるので、研修により、相当程度払拭できると考えられる。――経済産業省は、この点については、多様性を尊重する共生社会の実現に向けて職場環境を改善する取組が十分になされてきたとはいえないように思われる。(宇賀裁判官)
トランスジェンダーの人々が、社会生活の様々な場面において自認する性にふさわしい扱いを求めることは、ごく自然かつ切実な欲求であり、それをどのように実現させていくかは、今や社会全体で議論されるべき課題といってよい。トイレの使用はその一例にすぎないが、取組の必要性は、例えばMtF(Male to Female)のトランスジェンダーが意に反して男性トイレを使用せざるを得ないとした場合の精神的苦痛を想像すれば明らかであろう。 (今崎裁判長)
これら補足意見をどう思われるだろうか。
裁判官が突然社会改革者に豹変したが如き異様な口吻に私は極めて奇異な感を抱く。
性をめぐる社会通念・国民意識は極めてデリケートなものである。であるがゆえに、性に関する「常識」の変容を日本人がいかに整合的に受容するかは、十分な時間をかけて国民一人一人が考え議論していくべきことであると思う(日本人は性について極めて大らかで寛容な歴史をもっており、その点欧米とは根本的に異なることを軽視すべきではない)。
「自認する性」という考え方自体が極めて最近になって生まれたものであり、それに対して、大部分の国民にためらい・不安があるのは当然であって、それをただちに理解不足と即断することは慎むべきではないか。模索の期間を経てコンセンサスが形成され、新たにそれを迎え入れるのである。国民の意思形成が最も重要であり、公権力はみずからの立場を弁え、性急な受入れを督促すべきではない。
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長島 直哉 経済産業省 関東経済産業局登録 マネジメントメンター。大手メガバンク関連会社部長職退職後、人材派遣会社・経済産業省関東経済産業局等に「顧問」登録、中小・中堅企業向け顧問業務(経営支援・業務支援)に従事。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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