モミカの抗議は世界のイスラム教国に大きな抗議を呼び起こし、イラク、アラブ首長国連邦、モロッコは、スウェーデン駐在大使を自国に呼び戻した。スウェーデン政府は抗議デモを「イスラム嫌悪的な行為」と非難したが、同時に、「わが国には集会の自由、言論の自由が憲法で保護されている」と説明している。

スウェーデンでは今年1月21日、右翼過激派のリーダー、ラスムス・パルダン氏がトルコ公館前で市民の面前でコーランを焼却し、国際的なスキャンダルとなった。スウェーデン政府関係者は当時、この行為を非難し、事件の直後、コーラン焼却を禁止した。その理由は、安全上の懸念であり、イスラム世界での反スウェーデン抗議行動や過激派のウェブサイトからの攻撃の呼びかけがあったからだ。

しかし、ストックホルムの裁判所は「根拠は不十分だ」として禁止を取り消したのだ。曰く、「抗議とデモの自由は憲法で保護されている権利だ。一般的な脅威状況だけでは介入の根拠にはならない」と説明している。要するに、「言論の自由」は宗教団体の聖典を燃やす行為を容認しているというわけだ。

スウェーデンの「言論の自由」を聞いていると、フランスのマクロン大統領が2020年9月、「フランス国民は冒涜する権利を有している」と表明して、トルコなどイスラム教国から激しいブーイングが飛び出したことを思い出す。

フランスでは2015年1月7日午前11時半、パリの左派系風刺週刊紙「シャルリー・エブド」本社に武装した2人組の覆面男が侵入し、自動小銃を乱射し、建物2階で編集会議を開いていた編集長を含む10人のジャーナリスト、2人の警察官などを殺害するというテロ事件が発生して以来、イスラム過激派によるテロ事件が多発している。

マクロン大統領は2020年10月24日、パリの風刺週刊誌「シャルリー・エブド」がイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載したことに対し「わが国には冒涜する自由がある」と弁明したのだ。

世界のイスラム教国から激しい批判が出てきた。トルコのエルドアン大統領は、「マクロン氏は精神の治癒が必要だ」と侮辱しただけではなく、「フランス製品のボイコット」をイスラム教国に呼びかけたほどだ。

マクロン大統領が風刺画の掲載を「言論の自由」として譲歩する姿勢を見せなかったのは、同国では「政教分離」(ライシテ)が施行されているからだという。ライシテは宗教への国家の中立性、世俗性、政教分離などを内包した概念であり、フランスで発展してきた思想だ。

宗教の聖典を燃やす行為を「言論の自由」として容認するスウェーデンの世界観もフランスのライシテに通じる。神仏への極端な排他主義であり、人間中心主義だ。

やはり再度書いておきたい。詩人ハインリヒ・ハイネ(1797年~1856年)の言葉だ。「本を焼くところでは、やがて人を焼く」(「ハイネの“予言”は当たった」2023年7月6日参考)。聖典を含む書籍は人間の精神的営みの成果だ。その書籍の焚書行為は人間を燃やすことにも繋がる、というわけだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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