タワーマンションが売れている。2000年に火がついたタワマンブームは20年以上が経過しても衰えを見せていない。ニッセイ基礎研究所の調べによると、東京23区内で分譲タワマンに住む世帯数は、2005年の5.5万世帯から2020年には16.5万世帯と約3倍に増加した。アベノミクスに沸いた2013年以降の第2次タワマンブームでは、都内北部のほか都市郊外や地方都市へのタワマン供給が目立つようになっている。
人気化に伴って価格も上昇の一途をたどっている。2005年を100として算出される価格指数(ニッセイ基礎研究所算出)では、2022年の東京23区のマンション価格は92.4%の上昇となっているのに対し、タワマン限定では120.6%の上昇。タワマンのデベロッパーはカンカンの強気だ。
ところが、それと並行してSNSなどで拾える人々の声をみると様相はにわかに異なってくる。タワマンに注がれる「シニカルな視線」の可視化が進んでいるのだ。以前からタワマンの威圧感や、地震の際の揺れやすさはよく指摘されていた。それに加えて、近年では住民間で交わされる微妙な価値観のさや当てや、人間模様を面白おかしく戯画化したテキストがTwitterで注目を集めている。書籍化され幅広く知られるようになった、いわゆる「タワマン文学」の誕生である。都市に生活する「新しきブルジョアジー」というべき人々の間で生まれては消える、格差や嫉妬心のほろ苦い味わいは一読に値するものだ。その舞台であるタワマンは、都市住民にとって今、はたしてどのような存在なのだろうか。
「タワマンへの懐疑」広がるも「住めるなら住みたい」人が多数派
住宅ジャーナリストの榊淳司氏は、近年、世間において「タワマンへの懐疑」が広がってきたと語る。
「この2年くらいで、タワマンについての世間の風向きは明らかに変わりました。私が10年前にタワマンについて書き始めた時は称賛一色だったのが、この取材もそうかもしれませんが、否定的な記事が受けるようになっていますね(笑)。地べたからタワマンを見上げる人々の、『あんなに高くて威張っているようなマンションはなんだか変だ』という素朴な意見が市民権を得るようになってきたのだと思います」
タワマンはもともと好き嫌いが分かれやすいものだ、と榊氏は言う。住みたい人(ワナビー)や住民にとって、タワマンは立派で、都市生活の粋を具現化した憧れの対象であり、自尊心の拠り所である。ところがそれ以外の人にとっては、パッと見の違和感や威圧感を与える巨大な建物でしかない。
「欧州では、タワマンが低所得者向けの公営住宅として建設されることも少なからずあり、憧れられるような住宅ではありません。米国でも、子育て世帯では地べたが遠いタワマンに住むことなどありえないと考える人が多いのです。ただしアジアでは、ドバイや韓国、中国でもタワマンは好意的に受け入れられています。日本でも、私の肌感では、7~8割方の人がフワッと、タワマンに住めるなら住んでみたいと思っている気がします」
タワマンに対して、好意であれ否定であれ強い思いを抱く人はともに少数派だというのが、榊氏の見立てだ。