あなたがある人を裁判で訴えたとする。しかし残念ながら結果は請求棄却、つまり敗訴となった。あなたの主張を裁判官が認めてくれなかったことに、あなたは悲嘆に暮れるか、怒りを覚えるかだろう。

そんなときあなたは、裁判の相手方とまさに本件の担当裁判官とがFacebook友達であることを知ってしまった。あなたは、そもそもこの裁判は公正ではなかったのではないかと疑うであろうか。 

除斥と忌避とは

日本の民事裁判では、除斥と忌避という制度がある。

除斥とは、一定の要件を有し手続の公正さを失わせるおそれのある者を、その裁判手続における職務執行から当然に排除することをいう。 例えば、裁判官やその配偶者が当事者であったり、裁判官の親戚が当事者であったりするような場合には、当該裁判官は該当する裁判の裁判官とはなれない(民事訴訟法23条1項各号)。変わったところでは「裁判官が事件について当事者の代理人であったとき」という要件もある(同条1項5号)。例えば弁護士が裁判官に転職したような場合(弁護士任官)、弁護士時代に代理人となっていた裁判の裁判官とはなれない。

このように当然に排除される除斥とは別に、忌避という制度もある(民事訴訟法24条)。これは、当然排除事由には該当しないが、手続の公正さを失わせる恐れのある者を、申立てに基づいてその裁判に関する職務執行から排除するという制度である。

これら除斥と忌避の制度はいずれも、裁判が公正であることに対する一般人の信頼を守るための制度である。裁判が実際に不公正でなければよいというものではなく、公正らしく見せることが大事なのである。だから仮に公正な裁判ができることを確信していたとしても、除斥事由に該当するのであれば、その裁判官は当該裁判の裁判官になれないし、公正らしさを損なう事情があれば忌避事由となる。 

Facebook友達であることが忌避事由となるか

それでは仮に、裁判の相手方と裁判官とがFacebook友達であって、しかし除斥事由には該当しないような場合に、あなたがFacebook友達であることを理由に忌避を申し立てたとして、忌避が認められるであろうか。

この点、日本での裁判例はないものと思われるが、最近、フランスで大変興味深い裁判例が出された。町村泰貴(北海道大学教授)のblog(Machimulog)で詳しく紹介されていたので、孫引き紹介したい。

http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/2017/01/francefb-bbb6.html#more

Machimulogによれば、この裁判は弁護士会の懲戒処分手続に関するものではあるが、結論として、裁判所はFacebookで友達関係にあるからと言って忌避は認められないとしたとのことである。その理由としては、(1)Facebookで用いられる友達というのが伝統的な意味での友情を意味するものではなく、SNS上で接触を持つことを意味するだけであること、 (2)そのようなSNS上での接触が特定の党派性(偏頗性)ありと言うのには十分でないこと、(3)SNSの友達は同じ利害関心を共有しているにすぎず、本件では特に同じ職業を共有しているにすぎないことが挙げられたという。 

忌避事由にならないという結論に納得できる?

あなたがFacebookユーザーであれば、この裁判所の結論に賛成できるのではなかろうか。Facebook友達とは言ってもそこには濃淡があり、会ったこともないが単につながっているだけというFacebook友達も多いのではなかろうか。単にFacebook友達だというだけでは裁判の公正さが疑われる事情になることはないという結論に賛成できるのではなかろうか。勿論、単にFacebook友達であることを超えて、親戚のように親しいという事情があれば、それはまた別問題である。

ただし異論もあろう。仮に公正な裁判ができることを確信していたとしても、公正らしさを損なう事情があれば忌避事由となるという考え方からすれば、Facebook友達であることで公正さを疑う人が一部にでもいる限りはやはり忌避事由とすべきという考え方もあろう。

なお(当事者ではなく)訴訟代理人である弁護士と裁判官とがFacebook友達であることは、忌避事由とはならないであろう。これが忌避事由になるのであれば、司法修習を通じて弁護士の卵と裁判官の卵とが知り合い同士となることが多い現状からして、裁判制度の運営に大いに支障を来すこととなろう。 

裁判官は何もするにも一般人の目を気にしながら生きている?

話は変わるが、司法修習同期など、私の知り合いの裁判官を見ていると、裁判官には、名刺交換しただけというような、あまりよく知らない人をFacebook友達としては承認しない傾向があるように思える。結果としてFacebook友達の数も少ない人が多い。その理由も、どこで誰にどのように裁判の公正さを疑われるかわからないという警戒心から来ているものではなかろうか。

司法修習中に私が教えを乞うた裁判官は、自らが住むマンションの管理組合の集会でも発言しないように気を付けていると仰っていた。裁判官がマンション管理に関してこういう意見を持っていると一般人に思われると、一般大衆のマンション裁判に対する公正さに疑いを持たせることになりかねないから、とのことであった。

そのときは、「裁判官は何もするにも一般人の目を気にしながら生きているのだなあ」「自意識過剰だなあ」と気の毒に思ったが、裁判官のFacebook友達の話を聞いてその話を思い出した次第である。これでは異業種交流会に出ていろいろな業界の人と気楽に意見交換をするといったようなこともままならぬであろう。裁判官は生き辛いなあと思った次第である。

文・星川鳥之介(弁護士資格、CFP(R)資格を保有)/ZUU online

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