最近、イタリアやオーストリアでオオカミやクマがエサがなくなったので山を下りて人間が住んでいる地域まで侵入し、さまざまな被害をもたらしているというニュースをよく聞くようになった。
「シェーンブルン動物園」が動物を今後愛称で呼ぶのを中止するという決定に対し、「まったく理解できない」「ナンセンスだ」といった批判的な声が多い。ORFのニュース番組のアナウンサーは、「動物たちを今後私たちはどう呼べばいいのだろうか。チンパンジー1、チンバンジー2といったふうになるのだろうか」と話していた。
ところで、人類の始祖アダムとエバの最初の仕事は自分たちの周囲にいる動植物たちに名前を付けることだったといわれる。「エバ、あの大きな動物をゾウと呼ぼうよ」「アダム、湖を泳いでいるあれは白鳥と呼びましょう」といった具合だ。
それから長い時間が経過し、動植物の種は増え、繁殖していった。多分、動物たちが「総称」から「固有名」を得たのは人間と動物たちの関係がより深まっていったからだろう。人間は愛する動物たちを自分が付けた名前で呼びたくなる。アダム・エバから受け継いだDNAだ。
日本が一時期、ロボット工学の分野で世界の最先端を走っていた時、米国の理論物理学者ミチオ・カク氏は著書「未来の物理学」の中で、「日本人はロボットにもあたかも人間のように名前を付けて声をかける」と指摘し、日本のロボット工学の発展の背景には「日本人とロボットの間の独特の人間的交流にある」と説明していたことを思い出す。
話を動物園の愛称問題に戻す。動物園の使命が種の保存であるとすれば、特定の動物だけにスポットライトが当たるような状況は避けるほうが得策かもしれない。ただ心配は愛称を失った動物たちの精神的障害だ。
新型コロナウイルスのパンデミックでロックダウンが実施された時だ。動物園も閉じられた。日頃、動物園の訪問者の人気者だったオラウータンは自分を愛称で呼んでくれる訪問者が突然いなくなったので困惑し、欝になってしまったという話を聞いたことがある。
「シェーンブルン動物園」の動物たちが欝にならないことを願う。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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