オンライン健康相談、妊活サポート、低用量ピルなどのオンライン処方などのサービスが福利厚生や独自の制度として導入されるケース、さらにはプレコンセプションケア(将来の妊娠を考えながら自分たちの生活や健康に向き合うこと)の一環として、卵子凍結やホルモン検査のサービスを提供する企業なども出てきている。
特定非営利活動法人日本医療政策機構の調査によると、月経前に生じるPMS(月経前症候群)および月経に伴う諸症状のために、半数の女性が元気な時に比べて働くパフォーマンスが半分以下になると回答しており注2)、働く女性のパフォーマンスが低下することによる経済的損失額は約4900億円と見込まれている注3)。
また、5.5組に1組の夫婦が不妊治療を受けている、または受けたことがあるとされており注4)、不妊治療を経験した女性の23%が離職を経験し注5)、11%が仕事との両立が困難であるために不妊治療を断念した注6)とされている。
更年期に伴う症状についても、40歳以上で更年期障害や更年期症状があると回答した人のうち、仕事のパフォーマンスが半分以下に低下するという人が半数を占める結果となった注7)。
フェムテックによって、女性の健康課題は個人にとっての悩みであるとともに、企業としても取り組むべき重要な課題であることが可視化されたとも言えるだろう。
フェムテックの市場規模と経済効果フェムテック市場は、米国を中心に16年頃からできた新興市場だが、その規模は25年には500億ドルへと成長するとの予測注8)もある。日本においても、19年から20年にかけて事業者数は倍増しており、スタートアップによる資金調達の動きも盛んになっている。
ただ一方で、矢野経済研究所によるフェムケア&フェムテックの市場調査注9)によると、21年は前年比107.7%の642億9700万円、22年度は同109%の701億1300万円と予測されているが、成長市場ではあるものの依然として大きく開きがあり、「500億ドル」という数字が独り歩きしている感があることは否めない。
では、国内におけるフェムテックはこの先どのように成長していくのか。経済産業省の見立てについて紹介しよう。
20年度に行われた経済産業政策局経済社会政策室によるフェムテック産業の実態調査注10)では、働く女性のライフステージに沿う形で「月経」「妊娠・不妊」「更年期」と三つの分野に分けて試算し、25年時点のフェムテックの経済効果を約2兆円と推計している。
この調査では、試算仮説・前提条件に示されている通り、あくまで働く女性の仕事におけるパフォーマンス改善や、退職・勤務形態変更そのものが減ることで生み出されるであろう「経済効果」として述べている。
つまり、フェムテック製品・サービスが普及することでできあがる「市場」についての話ではなく、世間の注目を集めているとはいえ、それがそのまま市場拡大につながるとは限らない点には留意したい。
海外のような規模感の市場にしていくためには、薬機法上の位置付け・承認プロセス、国民皆保険制度との兼ね合いなど、決して低くはないハードルがある。
実のところ、フェムテックが一過性のブームとして終わることなく、さらに発展して日本社会に根付くためには、産官学が協力して適切なルールの下で良質な製品・サービスを世に送り出し、健全な市場を育成していけるかどうかにかかっているのだ。
国も期待を寄せるフェムテック日本の特徴的な動きとしては、政治の世界においてもフェムテックに注目する動きが活発になっていることが挙げられる。
その代表的なものとして、20年10月に設立された、フェムテックに関心を持つ自民党国会議員の有志による「フェムテック振興議員連盟」(以下、「議連」)がある。
この議連は、フェムテックについて二つの面から注目している。一つは、女性とそのパートナーがフェムテック製品・サービスの利用を通じて豊かな人生を送れるようになること、もう一つは、産業としてのフェムテックが日本経済の一つの柱となる可能性があること。
フェムテックという新しい市場が健全に成長するために必要なルールの整備や、規制緩和等の政策を推進することを目指し、大きく3本の柱を掲げて議論を進めている。
1、先進的な技術で、⽣理期間を快適に過ごせる社会に 2、不妊治療を含む妊活を⽀援することにより、⼦どもを望む⼈が希望を実現できる社会に 3、更年期の諸問題を解決し、社会・経済のリーダーとなる世代がより活躍できる社会に
これらに関する課題解決に政策的にどのように取り組むべきか、厚生労働省、経済産業省等の関係省庁やフェムテック事業者らとともに検討を重ねている。
21年3月には、良質なフェムテックの普及に向け、新しい製品・サービスが薬事制度上どのように位置付けられるのか、官民で連携して早急に協議すべきとする第1次提言がとりまとめられ、内閣官房長官をはじめとする政府幹部等に提出された。
こうした議連の活動を反映して、政府としてもフェムテックに取り組む姿勢が示された。21年6月18日に閣議決定された、政府の重要課題や予算編成の方向性を示す「経済財政運営と改革の基本方針2021」、いわゆる「骨太の方針」では、初めて「フェムテックの推進」という文言が盛り込まれた。
翌22年6月の骨太の方針にも「フェムテックの更なる推進」という言葉が盛り込まれ、また、「女性活躍・男女共同参画の重点方針2022」(女性版骨太の方針)にも具体的な政策について言及しており、引き続き政府においてフェムテックに取り組む姿勢が示されている。
次回以降、議連にて議論されている内容や、そこから導き出された提言の中身、実行された政策等について詳細に紹介したい。
(時事通信社「厚生福祉」2023年6月6日号より転載)
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注1)SOMPOひまわり生命 健康応援リサーチ「日本のFemtech(フェムテック)市場の可能性に関する調査」第3回 注2)日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査2018」 注3)経済産業省「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査報告書(概要版)」 注4)厚生労働省「事業主・人事部門向け不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」 注5)厚生労働省「不妊治療との仕事の両立について」 注6)厚生労働省・前掲・注5 注7)日本医療政策機構・前掲・注2 注8)米国コンサルティングファーム フロスト&サリバン社調査より 注9)矢野経済研究所「フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場に関する調査を実施(2022年) 注10)経済産業省・前掲・注3
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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