連邦議会の下院本会議は21日、昨年末まで下院情報特別委員会の委員長を務めたアダム・シフ議員に対する問責決議案を賛成213票、反対209票で可決した。シフ議員はカリフォルニア州選出、当選12回の民主党ベテランで下院では近年、情報特別委員会の委員長としてトランプ氏にかかるロシア疑惑の追及の先頭に立ってきた。
ロシア疑惑は周知のように2016年の大統領選でトランプ氏とその選対本部がロシア政府の工作員と共謀してアメリカ有権者の投票を不正に操ったとする糾弾だった。民主党側はトランプ政権の誕生時からこの疑惑を多方面から追及し、特別検察官まで任命して本格的な捜査にあたった。だが2年近くの捜査の結果、疑惑には根拠がないことが判明した。
今回の下院決議は議会でのこの疑惑の追及過程でシフ議員がトランプ氏のロシア政府との共謀には確固たる証拠があるとして有罪と断定する言葉を頻繁に述べてきたことを虚偽発言と断じて、その責任を衝いていた。
同決議の骨子は以下のようだった。
トランプ氏とロシア政府との共謀の事実はないという総括がモラー特別検察官、ホロウィッツ司法省監察官、ダーラム特別検察官の個々の捜査の結果、判明していたが、シフ議員は議会公聴会で一貫して「共謀の証拠を持っている」と断言し、議会とアメリカ国民をだました。
シフ議員はとくにイギリス政府の元諜報員が米側民主党筋の委託で作成した「スティール文書」のトランプ氏に関する虚偽の記述を事実として宣伝し、米議会下院の公式議事録に記載して、意図的に議会に誤認させた。
下院はその結果、シフ議員の虚偽発言を非難する問責決議を本会議の場で議長が同議員に対して読みあげ、同議員の不正な行動に対して下院倫理委員会が特別の調査を開始して、その責任を追及することを決めた。
以上のように同決議はシフ議員が「議会、同委員会、米国民を意図的にだました」という厳しい記述で同議員を糾弾していた。下院議員が問責処分を受けるのはアメリカ議会の長い歴史でもシフ議員が25人目、この20年間では3人目だという。
同議員自身も同僚の民主党議員も共和党主導のこの問責決議に反対票を投じたが、下院本会議として公式に同決議を採択した結果、トランプ氏にかかったロシア政府との共謀という非難には根拠がないとする総括を連邦議会の下院全体として公式に認めたこととなった。
しかもトランプ氏の「疑惑」を宣伝した議員に議会として懲罰を加えるという展開はバイデン政権司法省下の検察や連邦捜査局(FBI)がなお進めるトランプ氏に対する他の捜査や起訴の措置への共和党側の団結した強固な反撃とも認識される。
その結果、トランプ氏を中核とするこんごの大統領選キャンペーンでは民主、共和の激突がさらに錯綜し、加熱する見通しともなってきた。その激突は現段階では共和党側が一時的にせよ、優位に立った観がある。だが日本の主要な新聞、テレビの報道ではそんな構図はまず浮かんでこない。
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古森 義久(Komori Yoshihisa) 1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年7月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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