エルドアン氏がスウェーデンのNATO加盟へのボイコットを止めた理由をまとめてみたい。

①スウェーデンに亡命してきたクルド労働者党(PKK)関係者の受け入れ政策の見直しだ。スウェーデン政府はトルコ政府がテロ組織としているPKKの受け入れを今後制限することを約束した。

②米国から戦闘機F16の供与を得ること。バイデン米大統領はNATO首脳会談前にエルドアン氏と電話会談をし、トルコが強く願ってきた戦闘機F16の供与問題で話し合った。実際、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は11日の記者会見で、「トルコへのF16の供与を議会と調整して前進させる」と明らかにしている。

③トルコは1999年以来、EU加盟候補国のステータスを享受してきだが、加盟交渉は停滞している。エルドアン氏はEUのミシェル大統領と会談し、スウェーデンのクリステション首相との会談でもトルコのEU加盟交渉の促進を要請し、両者から快諾を得た。ただし、EU本部のブリュッセルからトルコ側のEU加盟交渉の促進に関連する何らかのオファーがあった、というニュースは聞かない。

④トルコの国益を守るために米国やNATO加盟国との交渉の最前線に立っているエルドアン氏の姿を国民に見せること。5月の大統領選で苦戦し、国民の批判を肌で感じたエルドアン氏は国民の支持を得るために世界の外交舞台でトルコの国益のために戦っている指導者イメージを見せつけた。

上記の4点をほぼ達成したと判断し、エルドアン氏はNATO首脳会談開催直前、「トルコはスウェーデンのNATO加盟をもはやボイコットしない」という爆弾宣言を発表したわけだろう。

考えてほしい。北欧の代表国スウェーデンのNATO加盟をいつまでも反対し続けることはできない。欧米諸国との様々な外交交渉にも支障が出てくる。リトアニアのNATO首脳会談前こそ「ボイコット中止の潮時」と判断したのだろう。

トルコにとってスウェーデンのNATO加盟問題は自国の存在感をアピールできる絶好の機会だ。そのカードを使い切れるまで利用するのが外交だ。その意味で、エルドアン氏は巧みに振舞ってきたといえるわけだ。

ところで、トルコ南部のシリア国境近くで2月6日に起きたマグニチュード7・8の大地震で多くの国民が犠牲となった。被災地を視察した時のエルドアン大統領の表情は苦渋に満ちていた。長期政権に君臨してきた政治家エルドアン大統領にも疲れが見えてきた、とさえ感じさせた。それをスウェーデンのNATO加盟問題がエルドアン氏を再び生き生きとさせたのだ。リトアニアのNATO首脳会談でのエルドアン大統領の表情には地震直後の疲れ切った弱々しさはもはや見られなかった。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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