一人(一国)だけが反対し続けることは外から見ているより大変なことだ。膨大なエネルギーがいるうえ、同僚(同盟国)からの厳しい目に晒されるからだ。その外交戦をいつ終焉させるかが勝敗の分かれ目だ。話はスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟をめぐるトルコのエルドアン大統領の外交だ。

会談するトルコのエルドアン大統領(左)はNATOのストルテンベルグ事務総長(中)とスウェーデンのクリステション首相(右)(2023年7月10日、トルコ大統領府公式サイトから)

エルドアン大統領(69)は10日、リトアニアの首都ビルニュスで開催されるNATO首脳会談の開催直前、スウェーデンのNATO加盟をもはやボイコットしないと表明し、同国の加盟批准書をトルコ議会に提出する意向を明らかにした。スウェーデンがNATO32番目の加盟国となる道が開かれたのだ。なお、トルコと共にハンガリーもまだ批准を終えていないが、オルバン首相はスウェーデンの加盟には問題はないと述べていることから、批准完了はもはや時間の問題だ。

エルドアン大統領の決断の前には伏線があった。同大統領はリトアニア入りした直後、記者会見で「わが国の欧州連合(EU)加盟への道が開くことを希望する」と述べ、スウェーデンのNATO加盟承認と引き換えに、トルコのEU加盟の促進をブリュッセルに向かってアピールしたのだ。NATO加盟とEU加盟はまったく異なったテーマだ。エルドアン氏は前者の交渉で後者をリンクさせたのだ。加盟交渉はバザールではない。しかし、外交の世界ではあり得ることをエルドアン氏は示したわけだ。