本件行政訴訟に対する元弁護士としての判断

本件行政訴訟の結果はリニア中央新幹線建設の可否を決めるものであり、現在および将来にわたって利用者を含む国民生活に重大な影響を与える。本件訴訟に対する元弁護士としての判断は以下のとおりである。

本件行政訴訟の結果を判断する場合に最も重要な点は、リニア中央新幹線建設による利益と不利益の「利益衡量」の問題である。本件訴訟においてもこの点が決定的に重要である。なぜなら、本件訴訟を含め、訴訟の勝敗は究極的にはすべて「利益衡量」によって決まるからである。

建設による利益としては、東京~大阪間をわずか1時間ほどで結ぶ超高速による利用者の利便性、それに伴う経済波及効果と経済成長の可能性、国内観光産業の発展と外国人観光客の誘致、大地震・津波等による東海道新幹線不通の場合の代替機能などが考えられる。

建設による不利益としては、原告主張の騒音、振動、日照被害、トンネル掘削による水枯れ、残土処分などの環境問題や、大部分が地下の超高速走行に伴う車体や乗客の安全性、地震発生時の避難の問題などが考えられる。

しかし、環境問題や安全性の問題は解決が不可能な問題ではない。環境問題については、各種環境対策により被害を軽減することが十分に可能である。また、安全性の問題についても、山梨リニア実験線では長年にわたり地下超高速走行を含め技術的な安全性の向上、地震時の避難対策、環境対策などに十分に注力され、安全に運行しており事故は発生していない。のみならず、中国上海ではすでにリニアが実用化されており安全に運行している。

このように見てくると、リニア中央新幹線建設による利益が不利益よりも大きいことは明らかと言えよう。したがって、本件行政訴訟は原告側の敗訴の公算が大きい。万一、国側が敗訴しても、本件行政訴訟判決は確定せず、控訴審、最高裁での確定まで、建設工事は続行されるであろう。東京地裁による建設工事の「執行停止」は重大な損害や公共の福祉への重大な影響を考慮し認められないであろう(行政事件訴訟法25条)。

仮に原告側が敗訴しても、本件行政訴訟の提起は決して無意味ではない。なぜなら、原告側による環境問題や安全性の問題などの指摘により、JR東海によるリニア中央新幹線建設工事がこれらの諸問題に真摯に対応せざるを得ず、その対策を促す効果があるからである。これは利用者を含む国民全体にとっても大きな利益である。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?