会長・政治評論家 屋山 太郎
岸田首相が5月のサミットを安倍晋三元首相が描いた通りにやり切ったことで、内閣支持率は50%を超えた。私もサミットは成功だと評した。その支持が早くも30%台に落ちたのはなぜか。政策の善悪で乱高下したのだと認識したら自民党の終わりである。
安倍路線で固まりつつあった自民党が、元のバラバラの自民党に戻ったと認識して民心は離れたのである。この傾向は事前に見て取れた。
「加憲」といって「改憲」に偽装する公明党と連立を組んでから24年、“保守本流”という自民党の流れが変わった。それでも安倍氏は改憲に近付こうと、9条2項はそのままで、2項の前に「自衛隊を設置する」条項でいいのではないかとまで譲歩した。9条2項は戦争放棄を定めた条項だから、これを置いておくと、その条項を根拠に反自衛隊論が存続するという懸念も残った。しかし安倍氏が狙った9条は安倍氏や自民党本流が狙う方向に動いてきた。
野党の中からも2項廃止論が出て来る一方、自民党のリベラリズムに嫌気のさした維新の会などが急膨張した。「HANADA」8月号にあの自民党の権化のような人がなんと「百田尚樹新党、結党宣言」を発表している。党首が偉すぎて候補が集まるかどうかが問題だが、宣言の趣旨は安倍晋三信者にぴったりである。
保守派が自民党に見切りをつけたきっかけは、まぎれもなく岸田首相がLGBT法案を“強行採決”させたことだ。統一地方選挙までは音なしの構えだった岸田首相は、毎日新聞の暴露で恐れおののいた。そこへエマニュエル米駐日大使と公明党が一気に押し込み、LGBT法案の流れが出来上がった。自民党内で特命委員会と内閣第一部会の合同会議を計4回開かせた。ところが反対論が優勢で反対58人、賛成意見は32人だけだった。明らかに反対側が多かったのだ。