すべてを飲み込む宇宙の“墓場”であるブラックホールはSFをはじめさまざまなストーリーに登場する誰もが知る“名脇役”だが、ある数学者によればなんとこのブラックホールは宇宙に存在していないというのだ――。

ブラックホールは存在しない?

 ブラックホールは巨大な恒星が燃え尽きてその天寿をまっとうした後、崩壊して重力の特異点を形成することで発生すると考えられている。その重力に引き寄せられればたとえ光さえも抜け出せない恐るべき宇宙の“墓場”である。

 ブラックホールがこれほど奇妙である理由は、宇宙に関する2つの基本理論が対立しているためである。アインシュタインの重力理論はブラックホールの形成を予測しているが、量子論の基本法則では宇宙の情報は決して失われることはないことが示されている。

 これら2つの理論を組み合わせようとする試みは数学的ナンセンスにつながり、「ブラックホール情報パラドックス」として知られるようになった。

米物理学者「ブラックホールは実在しない」と主張! 数学的に誕生しえないことを証明か!?
画像は「Pixabay」より(画像=『TOCANA』より引用)

 ノースカロライナ大学チャペルヒル校の物理学教授であり数学者であるローラ・メルシーニ=ホートン氏は2014年に「arXiv」で発表した論文で矛盾するこの2つの理論を統合することにより、ブラックホールはそもそも誕生し得ないことを数学的に証明したという。

 1974年、故スティーブン・ホーキング博士は量子力学を使って恒星が死を迎える時に、恒星から「ホーキング放射」と呼ばれる放射現象が起こっていることを示した。

 メルシーニ=ホートン氏も恒星が自らの重力で崩壊すると「ホーキング放射」が発生することに同意している。しかし彼女は「ホーキング放射」が起こることによって恒星も質量を失うことを示した。崩壊しながら縮小するにつれてブラックホールになるための密度がなくなってしまうというのである。

 ブラックホールが形成される前に、瀕死の星は最後にもう一度膨張し爆発する超新星爆発が起こるのだが、メルシーニ=ホートン氏によればその後に「特異点」は決して形成されず、「事象の地平線」も形成されないということだ。彼女の研究が示すメッセージは明解で、すなわちブラックホールなどというものは存在しないということである。

 この研究結果はメルシーニ=ホートン氏にとってもショッキングなものであったという。

「まだショックから立ち直れていません。私たちはこの問題を50年以上研究してきましたが、この研究結果は私たちに多くのことを考えるきっかけを与えてくれます」とメルシーニ=ホートン氏はプレスリリースで述べている。

 この研究は科学者に時空の構造の再考を強いるだけでなく、宇宙の起源についての有力な理論である「ビッグバン理論」についても再考することを求めるものにもなっている。

米物理学者「ブラックホールは実在しない」と主張! 数学的に誕生しえないことを証明か!?
画像は「Pixabay」より(画像=『TOCANA』より引用)