適度な飲酒習慣が健康増進につながる
結論は明快でした。「お酒をまったく飲まない人たち」に比べ、「アルコール量で15グラム以下のお酒をずっと飲んでいる人たち」、あるいは「その後、15グラム以下のお酒を飲むようになった人たち」は、認知症になる割合が21パーセントほど少なくなっていた、という興味ある結果が得られたのです。また効果はやや劣るものの、「15~30グラムのアルコールをずっと飲んでいる人たち」も「まったく飲まない人たち」に比べて、認知症になりにくいことがわかりました。
実は、適度な飲酒習慣が健康増進につながることは、以前から知られていました。たとえば米国で大規模に行われた調査では、ワイン、ビール、ウイスキーなどをそれぞれの専用グラスで、日々、1杯くらい飲んでいる人がもっとも長生きしていると結論されていました【注2】。
適度な飲酒は、認知症に限らず、心筋梗塞や脳卒中、がんなどを予防する効果も示されています。私たちの研究グループでも、飲酒と糖尿病の関係を調べたことがあります【注3】。1000名を超える健康な男性に対して飲酒の習慣を問診し、「お酒は飲まない、「週に1~6日は飲んでいる」「毎日飲んでいる」という3つのグループに分けて、追跡調査を行ったものでした。
血液中の糖分(ぶどう糖)は、インスリンというホルモンによって値が適度に保たれています。糖尿病は、このインスリンの効き目が悪くなるという状態で始まります。この現象は「インスリン抵抗性」と呼ばれています。
私たちの研究では、適度なアルコール摂取によってインスリン抵抗性が改善され、糖尿病になりにくくなるという結論が得られました。もちろん、喫煙や肥満度など、さまざまな背景因子も一緒に調べ、それらの影響を除外する統計処理も行ったものです。
気になるのは、飲酒と肝臓病との関係です。しかし数々の調査でわかってきたのは、両者にあまり強い関係はないという事実でした。よほどの大酒(週に750グラム以上のアルコール)を飲まない限り、命を縮めるほどにはならないと結論したデータもあります。一連のデータが教えてくれるのは、1日のうちのひとときを、ほどほどのお酒を楽しみながら、ゆっくり過ごせるような生活習慣が、認知症をはじめとするさまざまな病気の予防につながっているということです。お酒が飲めない人は、無理に飲む必要はなく、お茶やコーヒーなどを飲みながらでもよいのです。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)
参考文献
【1】 Jeon KH, et al., Changes in alcohol consumption and risk of dementia in a nationwide cohort in South Korea. JAMA Netw Open, Feb 6, 2023.
【2】 Thun MJ, et al., Alcohol consumption and mortality among middle-aged and elderly U.S. adults. N Engl J Med 337: 1705-1714, 1997.
【3】 Fueki Y, Okada M, et al., Regular alcohol consumption improves insulin resistance in healthy Japanese men independent of obesity. Clin Chim Acta 382: 71-76, 2007.
提供元・Business Journal
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