「『原爆投下が戦争を終わらせた』という誤った歴史認識を上書きするものであり、断じて容認できません」
広島県被団協などの要望書だ。広島と真珠湾の記念公園による「姉妹公園協定」に対するさまざまな意見の1つだ。
誤ったとはどのような根拠なのだろうか。また史実に基づかない「思い込み」だろうか。
「大した歴史検証をしないで、唐突に姉妹関係という仲良しになれというのは違和感がある。未来志向は理解できるか、やはり如何なものか?」という論旨の似たような意見もある。
まずは、すぐに仲良しになれとは誰も言っていない。おっしゃるように、歴史の検証が必要だ。きちんと検証しないからこそ、上述のような「誤った」という「誤った」主張をする。相互検証を一緒にやる切っ掛けにしようというのが、今回の協定の目的だ。
日本人が嫌なら、協定など無しでよいといえる。

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以下は日本の識者の声の一部だ。
「米国に対する憎しみは、消し去ろうにも消しされないものがある」「戦争を開始したパールハーバーと一緒になって」(原爆資料館の元館長で被ばく者・畑口実さん)
「被ばく者への侮辱だ」「旧日本軍による真珠湾攻撃は、軍事施設だったのに、原爆投下で無差別に市民の命が奪われた」(森滝春子さん)
「米国からみた歴史しか残さないのだろうか?」(脳科学者の中野さん)
「リメンバー・パールハーバーというならば、ノーモア・ヒロシマ」と言いたい(TVキャスター大下さん)
① 畑口さん。米国に父親を殺された憎しみ。確かに消し去ることなどできない。だが宣戦布告無しに攻撃されて、死んだ米国人の遺族はどうですか?
真珠湾攻撃では米国人3000人近くが殺された。遺族の多くは憎しみを消せない。お互いに永遠に憎しみ合う(それでも米国人は12月7日に攻撃された時、戦死した日本操縦士に敬意を表して、米軍の正式葬にして墓標まで建てた)。それも一理です。だがそこからなにが生まれるか? 特に現在の中国の脅威を考えるべきです。「戦争を開始した真珠湾と一緒になって」というが、そもそも戦争を始めたのは日本。この2つの平和公園の悲劇の一番最初の原因を作ったのは、いきなり布告無しに爆撃を始めた日本なのです。
② 森滝さん。真珠湾攻撃で、なんの罪もない民間人が70人くらい死んだのをご存じですか? 宣戦布告無しにいきなり攻撃をして、罪もない3000人近くの米国人が殺された。原爆投下のような戦争中ならまだ覚悟が少しはあった。各所に無差別爆撃があった。だが、宣戦布告無しで殺された人の遺族の気持ちを考えたことありますか。ヒロシマは警告がなかったいう批判も日本人には多い。しかし、宣戦布告無しの攻撃で死んだ人間の気持ちはどうですか?
そして無差別大量殺りくになったヒロシマへの道。ドレスデンや東京大空襲もそうだが、ヒロシマは明らかに非人道的な無差別攻撃で戦争犯罪といえる。投下責任は米国、そして英・豪・加だ。論を待たない。
日本はサイパン辺りから敗戦を覚悟した。それまでの戦い方は、自分自身は米兵の血をもらって生き延びた東条の命令により、自分も捕虜にならない。場合によっては家族まで殺し、米国・オランダなど連合国兵士の捕虜を虐殺した。天皇を守るため、世界の変実や考えを知らない日本は、ソ連への仲介を求め続けた。沖縄では地元民を「人間の盾」にした。
ポツダム宣言を受諾すれば原爆2つはなかったのに、開戦以前が続くをいえる致命的な情報戦敗北でそれも黙殺した。もちろん、米国はありとあらゆるとも言える可能性も議論、警告としての東京湾への投下も検討された。だが国民・国土よりも天皇が重要な日本には、その程度の警告など意味がないことが分かった。現実にソ連参戦まであまり真面目に降伏を考えなかったようにもみえる。幾つもの要因があり、ヒロシマ市民の虐殺につながった。
歴史に「タラネバ」はない。だが原爆で降伏しなければ、日本人にとってどうでもよい?米兵だけでなく、本土玉砕という形で多数の日本の軍人、そして民間人が、焼夷弾による空襲(そして毒ガス絵利用?)で死んでいた。
どれだけ空襲が継続していたか。特殊な化学燃焼剤利用で火がついたら止められないのに、(東京空襲経験者の母の話だが)棒の先に布を巻き、水を浸して火を消せ、バケツリレーもやれとも言われていた。それらのことを考えるなら、真珠湾攻撃は対象が軍事施設だから、比較論で「それほど悪くなかった」と言えますか?
「被ばく者への冒涜」?。筆者の父は陸軍兵士としてヒロシマ爆心地2キロで被ばく、最後は白血病で死んだ。生前繰り返し言っていたこと。本土玉砕で、天皇のために死ねと言われ続けた。十分な装備なく戦うという不条理があった。それだけでなく、死ぬのが重要という雰囲気だった。間違いない死を覚悟した。原爆炸裂後しばらくして、気が遠くなるような数の死体を焼きながら、この狂気の日本はやっと降伏すると思った。このような被ばく者もいるのです。
③ 中野さん。普通以上の知性があれば、米国からみた歴史だけ残す気など誰もありません。完全に終わってはいないが、検証の結果そうなるだけです。
例えば、今回の姉妹協定は確かに未来志向でその傾向は最終目標としてはあるだろうが、いきなり2つの出来事を全て水に流して赦し合うということではありません。ここに書くように、まだまだお互いの認識にすれ違いがある。だからこそ、情報を交換して、史実を知る努力をするのが、当面の目的です。
米国からみた歴史? もう少し世界の人々と議論して下さい。2つの悲劇だけでなく、先の戦争でどちらがどのくらい悪く、責任があるか?現在の世界の通説、その修正はあるが一応の結論・解釈は、米国だけのものではありません。
「真珠湾への道」この種の国際政治は、当然お互いに言い分がある。片方が全部悪いなどあり得ない。プーチンのウクライナ侵略言い訳と同じ状況です。だが開戦までに日本が立ち止まり、方向転換できる分岐点が10以上あった。日本は侵略戦争を開始、国際連盟から脱退、最初に武力行使した方が悪い=負けという論理で、始めた日本がほぼ全ての責任が問われる。真珠湾がなければ、ヒロシマはなかった、これが日本以外の世界の常識です。
④ 大下さん。もう少し世界で議論して下さい。「リメンバー・パールハーバーを言うなら」。違います。いまさらそんなことをいう米国人はまずいません。多分、記念式典に参加したこともないから知らないでしょう。式典でも、本来なら布告無しの卑怯な攻撃で、民間人など3000人近くが死んだという非難はあまり聞かない。日本人が原爆で米国に謝罪を求めるような感じで批判しない。
日本と違って、いまや誰も謝罪を求めない。その数十倍の多さで、まずは日本がヒロシマを持ち出す。ここにも書くように日本人が自国政府の判断ミスを棚に上げて原爆使用で米国を非難継続する。だからやむ負えなく「お返し」で、リメンバーが登場するのです。日本人が気が付いていないことは、あの戦争のほぼ全てが原爆の被害という感じで、もちろん平和強調のコンテクストですが、自分の被害ばかり強調しているように海外からはみえるのです。もともとの始まり、自国の侵略行為は無視、アジア諸国や米・オランダ軍兵士への虐待、加害行為など、まずなにも言わない。原爆被害ばかり強調するようにみえる。
繰り返さない「過ち」の主語が「人類」? なんで「人類」なのか? 世界は当時の「軍国日本」だと思っている。言論と報道の自由が殆どなかった当時の軍国日本は「人類」を代表していない。
例えば、現在のウクライナ危機。プーチンの蛮行は、1920年代くらいからの日本の侵略との共通点がある。そこの部分もあまり論じない。他人ごとと解釈できることばかり。
ここにも書くように、ヒロシマの意味と史実がしっかり検証できていない。だから米国が悪いので、謝罪を求めるとか、原爆が戦争を終結させたという主張が「間違い」という「間違い」を言うのです。
⑤ ここで本題。「ヒロシマが戦争を終わらせた=日本が降伏した」。被団協はなにを元に「間違い」というのだろうか?
1つ思い当たることは、米国人の歴史研究家ガー(アルペロヴィッツ ; Alperovitz 博士)は、小生のUC Berekeley の先輩。複数回、長時間ワシントンの自宅で話を聞いた。彼は米国人研究者として世界で一番公文書を読んだ学者として有名。
最終的に「ヒロシマは不要だった」という論を1960年代から展開、ここ20数年で有名になった。 原爆は降伏させるために使われたという通説を否定した。多くの日本人から喜びの声が聞かれた。
彼の説によると、米側の投下理由はまずは①ソ連への威嚇、②降伏させたかった、③以下、真珠湾報復、巨額予算の説明、プルトニウム実験、人種差別などなど10くらいの要因ある。
彼によると、投下理由としてのこの説は米国歴史学会では、多くが支持している。