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脱炭素要請による下請けいじめを指摘する面白い記事を目にしました。「脱炭素要請は世界の潮流!」といった煽り記事ではなく、現場・現実を取り上げた記事が増えるのはとてもよいことだと思います。
「よく分かんないけど数字出して」脱炭素を巡って“新型下請けいじめ”が横行中
企業のサプライチェーン・調達部門は、取引先サプライヤーに投げかけて、排出量を正しく計算させようとしている。
ところが問題なのが、サプライチェーン・調達部門でも、LCA注1)どころかCFP注2)の簡易的な方法すら知らない人が大半ということだ。そんなわけで、「よくわからないけれど、とにかく取引先にお願いしよう」といった“むちゃぶり”が横行しているのだ。
「排出量を算定してください」 「えっ、どうやってやるんですか? 方法を教えてください」 「わかんないけど、調べて算定してよ」 「範囲は?」 「そりゃ、うちに納品しているやつ」 「どこまで入れるんですか? たとえば事務所で使っている電力利用分とか」 「だから、わかんないけど、とりあえず出してよ!」
とまあ、こんな調子の会話が日本の至る所で繰り広げられている。
注1)LCA:ライフサイクルアセスメント 注2)CFP:カーボンフットプリント
筆者の元にも連日国内外の企業から脱炭素やスコープ3の要請が押し寄せて泣かされていますが、幸いなことにここまで酷いケースに当たったことはありません。本当にこんな日本企業があるのでしょうか。産業界に身を置く者として信じたくないですが。
サプライヤー企業の営業部門に対して、一つアドバイスすると、「とにかく提出する」のをおすすめする。前述のような不毛な会話に時間を費やすのは無駄だ。何せ、納入先もきちんと理解しているわけじゃない。詳細を聞いても答えが出ないのは当然だ。だから例えば、生産段階で生じる排出量など、範囲を思い切り絞って回答するのがいい。
半分賛同しますが、後述の通りサプライヤー側から条件や出せる数字を提案しても飲んでくれない納入先がたくさんあります。
やはりサプライヤー側も毅然とした態度でできること・できないこと、追加の手間やコスト、期日などを伝えて今の空気を変えていかなければなりません。不毛な依頼に対して不毛な回答を返していては産業界全体で生産性が落ちる一方です。結局はコンサルが儲かるだけでサプライヤー側に何ら付加価値がないキラキラツール(SDGs、SBT、カーボンプライシングなど)が横行してしまいます。
金融機関から届くESG評価も同様です。膨大なESGアンケートに答えて金融の専門家がE(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)を評価しても、ESG投資商品の構成銘柄を見れば名だたる企業が並んでいるだけ。その結果、ESGはグリーンウォッシングという見方が広がっています。アウトプットが同じならインプットを増やす必要はないのです。
一方、サプライチェーン・調達部門には、全く違った角度からアドバイスをしたい。それは、「脱炭素に向けた排出量の算定については、その対価が発生する」ということだ。というのも、これまでサプライヤーは、排出量の算定をしていない。新たに算定する行為には、当然ながら人手や作業時間が生じる。それは、追加コストになり得るのだ。
今般のガイドは、ご丁寧に、「下請法」と「下請中小企業振興法」についても大きく取り上げている。
まず、CFP算定に関わるデータ提供について、下請事業者が受け入れ可能なものでなければならないとしている。かつ、「協議の経緯を保存」せよという。その上で、<サプライヤーとバイヤーとの間で、データ提供業務のための負担額及びその算出根拠、使途、提供の条件等について明確になっていない「経済上の利益」の提供等下請事業者の利益との関係が明らかでない場合は、下請法違反となる可能性がある>と続く。
また、<環境対応等のために必要とする箇所・範囲を明確に定めず、又は、環境対応等の目的を達成するために必要な範囲を超えて、技術上・営業上の秘密等(ノウハウを含む)の提供を求める等の行為は、下請振興法の振興基準に照らして問題となるおそれがある>ともある。