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トランプは「Newsmax」が生中継した7月1日の集会で、前日に連邦最高裁が出した3つの判決(アファーマティブ・アクション判決(以下、A・A判決)と学生ローンの返済免除を違憲、宗教を理由とする業務拒否を合憲とした各判決)について、自らの政権が「『3人の偉大な最高裁判事』と約300人の連邦裁判官を任命した後に起こった」「判事たちはこの国を前進させる判決を下した」と自賛した。
最高裁判事は終身職で、目下は就任順に、C・トーマス(75歳、91年ブッシュ父)、J・ロバーツ長官(68歳、05年ブッシュ子)、S・アリート(73歳、06年ブッシュ子)、S・ソトマイヨール(69歳、09年オバマ)、E・ケイガン(63歳、10年オバマ)、N・ゴーサッチ(55歳、17年トランプ)、B・カバノー(58歳、18年トランプ)、A・C・バレット(51歳、20年トランプ)、K・B・ジャクソン(52歳、22年バイデン)の9名だ。※()は年齢・就任年・指名者。
民主党大統領が指名した3人が全て女性で、うち2人が黒人とヒスパニック系なのは如何にも民主党。16年2月に死亡したスカリア判事の後任は、オバマが指名したM・ガーランド(現司法長官)に議会共和党が反対した結果、その年の大統領選に勝ったトランプが指名したゴーサッチが17年1月に就任した。20年10月のバレットも、前月に死亡したキンズバーグの後継に、大統領任期切れ寸前のトランプが押し込んだ経緯がある。
そのためトランプの感慨も一入(ひとしお)だったらしく、A・A判決について次のように述べた。
判事らは米国を成果主義の教育制度で前進させる判決を下した。それがどれ程大きなことかと言えば、もしあなたが労働者で、学校でとても良く勉強し、素晴らしい成績を修めたとしたら、おそらくそれ程良く働かなかった誰かが、学校、単科大学や大学であなたの地位を奪うことはない……私たちの国を築いた昔の実力主義に戻るのだ。これは大きなことだ。
2つ目のバイデンが提案した学生ローン返済免除の違憲判決についても、こう述べた。
バイデン大統領が、何千億ドル、おそらく何兆ドルもの学生ローンの負債を帳消しにすることは許されない。これは、勤勉に働いて負債を支払った何百万、何千万という人々にとって非常に不公平なことだ。
3つ目の「宗教を理由とする業務の拒否」を合憲とした判決については、裁判所は「信教の自由に大きな勝利をもたらした」と述べた。
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これら3つの裁判だが、先ずA・A判決は、これまで「大学入学における人種に基づく積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)」を認めてきたハーバード大学とノースカロライナ大学チャペルヒル校(UNC)の慣例を違憲とした判決だ。
当のハーバード大学内報「ハーバードガゼット」は次のように書いている。
最高裁判所は木曜、40年以上にわたる判例を覆す判決でハーバード大とノースカロライナ大UNCの人種差別を考慮した入学プログラムを破棄した。採決はUNCケースが6対3、ハーバードではジャクソン判事が退席し6対2だった。この決定により、ハーバードが9年間取り組んできた人種を入学者決定の数ある要因の一つとする方針を擁護する取り組みが終わった。訴訟は、保守派の活動家E・ブラムが創設した反アファーマティブ・アクション団体「SFFA(Students for Fair Admissions, Inc.)」によって起こされた。既存の判例を適用した2つの連邦裁判所判決はハーバード大が勝訴していた。
最高裁のロバーツ長官は多数派意見で、「両校のプログラムは、人種の利用を正当化する十分に焦点を絞った測定可能な目的を欠き、人種的な固定観念を伴っていて、必然的に否定的な方法で人種を利用し、有意義な最終目標を欠いている」とし、「私たちは入学プログラムがそのような形で機能することをこれまで一度も許可したことはないし、現在もそのつもりはない」述べた。SFFAはA・Aが白人やアジア系米国人の学生に悪影響を及ぼしていると主張していた。
一方、ジャクソン判事(黒人女性)は次のような少数意見を述べた。
多数派は裁定で「すべての人にcolorblindness=人種の違いを意識しないこと」を宣した。が、人種が法律に無関係であると見做すことが、人生においてそれを意味するわけではない。そして現在の法廷が、この国の実際の過去と現在の経験から余りにかけ離れているため、UNCや他の高等教育機関が米国の現実世界の問題を解決するために行っている重要な努力への干渉に誘い込まれている。
これに対して、最古参で黒人のトーマス判事は、「(ジャクソン判事の)見解では、人生の結果の殆どすべては躊躇なく人種に帰せられるかもしれない。が、この知識(lore)は違っていて、決して真実ではない。私が育った人種隔離された南部でも、個人は肌の色がすべて(sum)ではなかった」と述べた。
この件では、大統領予備選に出馬したサウスカロライナ州共和党の黒人上院議員ティム・スコットの談話もなかなかだ。彼は「祝うべきだ」とし、判決を批判した「オバマ夫妻をはじめとする左派は、米国における機会について『地獄の底から』嘘を押し付けているとし、こう付け加えた。
ハーバード大に行こうが、チャールストン・サザン大(※ティムの母校)に行こうが、配管工になろうが溶接工になろうが、アメリカン・ドリームを体現できる。私が大統領選に出馬するのは、米国が私にしてくれたことを誰にでもできることを知っているからだ。
肌の色によって、教育・収入・家族形成などどの点からも目標を達成できない、というメッセージは地獄の底からの嘘だ。私たちは肌の色だけで判断されることはない。今日の判決はそう言っている。それは米国の進歩の物語であり、私たちは今日、それを祝うことができる。
49回を数える「WATCH: Joe Biden’s Senior Moment of the Week」で毎週バイデンの耄碌ぶりをオチョクる「ワシントン・フリー・ビーコン」は、判決後にバイデンが「従来の入学慣行がどの様に機会ではなく特権を拡大したのか」精査するよう教育省に指示したことに対し、「バイデンはかつてペンシルベニア大学長に電話し、孫娘を入れてもらった。教育における『特権』を取り締まりたいと述べた大統領は、標準以下の孫娘を大学に入学させるためにアイビーリーグのコネに頼った」ことを、孫娘の父(ハンター)のラップトップに残されたメールメッセージも添え、微に入り細を穿って報じる。
関連して6月29日の「Axios」が、米国の22年の人口データを00年との増減で載せいている。
記事に拠れば総人口は3億3330万人(18.4%増)、構成は人口の多い順に、白人:2億5160万人(19%増)、ヒスパニック系:6,370万人(80.3%増)、黒人:4,540万人(31%増)、アジア系:2,100万人(104.6%増)、Two or more races:1,010万人(47.5%増)、American Indian and Alaska Native:440万人(77%増)、Native Hawaiian等太平洋諸島系:88万人(120.3%増)である。
ヒスパニック系とアジア系の移民の貢献が大きいのだろうが、18%しか占めていない黒人に対するA・A政策はもういい加減にやめよう、との最高裁判断だろう。
判決の翌日、「ハーバードガゼット」は「教育は米国における人種進歩の力であるが、まだ先は長い」との22年10月の記事を再掲し、教育における人種問題の出来事を「法の下の平等」を定めた1868年の憲法修正第14条から始めて、未練がましく報じている。
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