東京都新宿区荒木町は、花街の風情を残す飲食店街。荒木町商店会のホームページによると明治時代には「お江戸の箱根」と呼ばれていたという。松平摂津守のお屋敷と木々の緑に囲まれた清らかな滝が流れる池があり、風光明媚な庭園は東京の名所になった。池の周りには池見の茶屋ができて、花見や涼を求める人の賑わいが花街の発展へとつながったという。
この街の北側に「青森PR居酒屋 りんごの花」という店がある。13.5坪・25席という規模ながら、店内には壁から天井のいたるところにねぶた祭りや青森の大自然の観光ポスターが張りめぐらされている。新規のお客は店の扉を開けると驚きの表情となり、リピーターにとっては安堵感をもたらす。2011年1月6日にオープンして創業13年目を迎えている。
居抜き店舗の空間を「青森色」で埋める

「りんごの花」を経営するのは女将の茂木真奈美さん(51)と店長の小池政晴さん(54)。二人は前職の食品メーカーで知り合い、青森県出身の茂木さんの「青森の魅力とおいしさを直接伝えたい」という思いを小池さんがバックアップするかたちでオープンにこぎつけた。そのきっかけは、それまで茂木さんが人から幾度となくこのようなことを質問されていたことだ。
「青森って何があるんですか。りんごと十和田湖ぐらいしか思い浮かばないけど……」
そのたびに、青森の特産品や観光地の説明をしながら、悲しい思いをしていたという。また、茂木さんは県外に出たことで、これまで自分が当たり前に食べていたものが、実は青森県の特産品であったり、同じ野菜でも青森県産のものの味が濃かったりすることに気付いた。さらに、食品メーカーに勤務していた当時は、全国の各地を訪問し、それぞれの特産品を見て、食べる機会に恵まれた。多くの県では、その県の出身者が自分の県の特産品を他の地域でPRして、知名度アップに努めていることも知った。そこで青森県の特産品に関してはPRが不足していると感じるようになり、一大消費地の東京で、青森県産のおいしい食べものを食べてもらいたいという思いが募っていった。これらに加え、青森の伝統工芸品も伝えていこうと考えた。

店の立地は「新宿」と「渋谷」を想定した。それはよく知られた街でPRの発信がしやすいと考えたからである。そして、それぞれの中心地から1駅ないし2駅程度離れたエリアを想定した。現在の物件は居抜き専門の業者から紹介されたもので、間口が広いことからすぐに気に入った。初期投資が抑えられて堅実なスタートを切ることができた。当初の店内の様子は居抜きのままの使い古された内装だったが、営業を進めていくにつれて、青森のねぶたや観光のポスターをサービスされるようになり、それを整理して壁に貼っていくことで「青森PR居酒屋」の狙いがダイナミックに表現されるようになった。大きなモニターでは、青森の祭り、自然の風景などを放映するほか、ローカルのテレビ局で昭和40年代に放映されたCMを放映して、青森で育った中高年から「なつかしい!」といった感激の言葉をもらっているという。
