1. 台湾

    2017年5月24日、台湾の憲法裁判所は、結婚を異性間に限定した民法規定を憲法違反だと判断し、今後2年以内に改正もしくは新法を制定するよう命じた。台湾の同性愛者の権利運動はアジアの中でも屈指の規模と影響力を誇っていたが、同性婚に対する市民の関心は薄かった。反対派はこの世論の空気を利用して国民投票を呼びかけた。

    2018年11月に実施された投票では、有権者の67%が同性婚に反対し(CNN, May 17, 2019)、72%が結婚は従来どおり男女の間に限られるべきだと回答した(Forbs, May 22, 2029)。

    しかしながら、蔡英文政権は、こうした民意に対して、それでもなお憲法裁判所の判断が遂行されるべきだと応答し、法制化をめざした。

    裁判所の定めた期限が1週間後に迫った2019年5月17日、政府法案のほかに、反対派の骨抜き法案2本が立法院に提出された。審議の末、反対派法案は退けられ、政府法案が可決された。養子縁組の禁止、一方が台湾籍以外のカップルの結婚は除外されるなどの制約は課されたものの、アジアで初めて同性婚の合法化が達成されたのである(CNN)。

    蔡政権の断固たる姿勢には、対中関係も影響しているように思われる。折しも、香港では犯罪人の中国への引き渡しを可能にする「逃亡犯条例改正案」が立法会に提出され、一国二制度が掘り崩されつつあるとの恐れが広がり始めていた(産経新聞、2019/6/12)。

    同性婚合法化は、台湾が人権と多様性を尊重する民主的な体制を持ち、自由や人権を制約する強権的な中国とは対照的であることを世界に向けて強くアピールできる。実はこの点を台湾の研究仲間に確かめたところ、あり得るとのことであった。

    政府法案への支持を広げるうえで、産業界が果たした役割も見逃せない。グーグル、王道銀行、アーンスト・アンド・ヤング社(EY)を含む域内15企業が同性婚はイノベーションを促進し、協調性を育むと、そのメリットを掲げて、賛成派勢力の一翼を担った(Forbs)

  2. 示唆

    南アと台湾の法制化では、いずれも反対を押し切る政治的リーダーシップが成功の鍵になった。なかでも、台湾は7割前後の有権者が同性婚に反対し、伝統的な婚姻制度の維持を望んでいた。

    翻って日本は前回の投稿で示したように同性婚に賛成が7割前後、法の整備は少なくとも国民レベルでは時期尚早ではない状況だ。しかも、法制化は日本の国益にも叶う。ジェンダー平等後進国日本のイメージを改善し、「自由で開かれた」に相応しい。

    2つの事例では産業界の動きが目を引いた。もっとも、欧米の産業界ではすでにLGBTQ+の人びとに対する関心が高まっている。ジェンダー平等と多様性の尊重が企業価値を高めるばかりか、かれらの購買力が大いに期待できるからだ。たとえば、欧米では企業がかれらのニーズに特化したサービスを開発し、提供する動きが高まっているという(NHK NEWS WEB、2023年6月26日)。

    同性婚の合法化、私にはメリットしか思い浮かばない。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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