世界の人々と歴史について話すとき、いつも羨ましいのは、ごく普通の庶民であっても、自分の国や民族の立場をきちんと反映した教育を受け、それに基づいた歴史観を語り、国益を擁護できることです。

ところが、日本人は分野別の専門家の学説を寄せ集めた教育しか受けてないので、知識はありますが、日本人として説得的に歴史を語れず、国民としても個人としても損をしています。

このほど「民族と国家の5000年史 ~文明の盛衰と戦略的思考が分かる」と題する本を出しましたが、一般の読者の方はもちろん、政治家や外交官・ジャーナリストに対しても、 日本人として世界と日本の歴史をどのように理解し、併せてさまざまな問題について世界の人々にどう主張していくかを考える際の骨組みを提供することを目的としたものです。

したがって、日本の国益も十分に考えていますが、同時に、欧米の人にも、アジアの人にも説得的な論理構成を心がけました。戦略として、国益や民族の誇りを擁護できる歴史観とは、独りよがりな国粋主義的なものではありません。そんなものは、『歴史修正主義』の烙印を押されて、日本の国益を害するだけですし、個人としても悪い評価を受けるでしょう。

もちろん、中国や韓国の人々についてだけは、容易に納得してくれるとは思いません。私は、彼らとの対話も大事だと思いますが、とりあえずは、欧米やアジアの他の国の人々の理解を得る歴史観を確立し、間接的に中韓の人々にも一定の理解をしてもらうことが現実的だと思っています。

今度の本は、世界の歴史を満遍なく網羅的に知ることでなく、現代の世界を理解するために必要な歴史知識を得ようというものです。ですから、国にも時代にもメリハリをつけ、最近の出来事に歴史的背景を絡ませながらですが、多くのページを割いています。

ただし、世界中のどの地域や時代についても、世界史の流れの中でどういう意味があったかは必ず触れて空白地帯はないようにこころがけてます。

イスラム教が生まれ発展した経緯は、よく知られていますが、その前後の世界史とそれがどのようにつながっているかは、あまりよく知られていませんでしたから解説しています。コロンブス以前のアメリカ大陸とか、植民地化以前のアフリカ大陸の歴史と言ったあまり知られていないことも量は少ないが解説しています。

さらに、日本人になじみはないが、重要だと考えられる難解なテーマについても、明快にわかりやすい解説にしましたので、これまで理解出来ずもやもやしていた話が、目から鱗が落ちるといった感じで解決することも多いと思います。

ウクライナとロシアの淵源、ユダヤ人とは何か、チベット・ウイグルは中国に侵略されたのか、イスラム教の力の源泉、中世のヨーロッパとキリスト教、インドの歴史、大航海時代の始まり、奴隷貿易のどこがとくにひどかったのか、イギリスの王朝交代、米国と中南米の関係、中東問題の背景、韓国の反日感情のルーツなど日本人の苦手な分野だと思うのでとくに力を入れて説明しています。

世界史は一人で書かないとおかしい

最近、世界史ブームですが、一人で世界史と日本史を両方とも書いたというのはあまりないようです。しかし、統一した視点から理解し、書かないと全体像は決して描けないと思います。

これまで私は、日本、中国、韓国、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカなどの通史を書いてそれなり評価頂いてきました。もちろん、個々の分野については、その分野の専門家が詳しいに決まっていますが、各分野の専門家の書いたものを別々に読んでも全体像は浮かんできません。

日本人にとって日本列島の歴史も大事ですが、稲作を始めた長江流域の農民たちは、私たちの先祖の重要な部分だったと考えられますし、古代ギリシャで展開された文化や思想は私たちの精神に大きな影響を与えています。

シェリーという19世紀のイギリス人詩人は、「私たちはギリシャ人だ」といいましたが、それなら、現代の日本人もギリシャ人といってよいのですし、中国人の多くが、漢や唐の文化を本当に継承しているのは日本ではないかと評価しています。

また、仏教の誕生と発展、コロンブスによる新大陸の発見、アメリカ独立やフランス革命といった出来事も日本史に大きなインパクトを与えました。

そして、近現代の日本は、世界に大きな影響を与えています。近代西洋文明の成果が全人類に普遍的に享受されうるものであることを明治日本が、世界革命でなく経済成長が先進国に追いつくことを可能にすることを戦後日本は世界に示しました。