その後、定期点検とともに原発は停止し、「世界一厳しい」とされる新規制基準をクリアするのに10年を要した。

2022年の末頃から順次起動し現在に至っている。

10年ぶりに足を踏み入れた現場では、作業員の往来に『ご安全に!』の掛け声が飛び交い、運転員の所作には自信と責任がみなぎる所作がそこかしこに見て取れた。

今年も酷暑が予想される関西の夏は、大規模停電などの大過なく過ぎ去って行くことだろう。

大飯原発の視察を終えて、この国のインフラをガッチリ支える原発の実力を改めて実感した。

新増設の未来:SRZ-1200

政府のエネルギー政策は、〝原子力の最大限の活用〟であり、再稼働の促進とともに新規原発の建設がGX実現における大きな目玉政策になっている。

若狭地域の地元の皆さんの原発新設に対する期待も大きく、聞けばそもそも大飯の敷地には大型原発が7、8基は建設できるというのが立地当時の触れ込みであり、実際そのようなスペースはあるとのことだった。新規制基準のもとでは、火災の延焼防止対策はじめ様々な追加的安全対策やテロ対策(いわゆる特重施設)の結果、利用できるスペースは減ったが、それでもまだ大型原発数基程度が収まる余地はあるという。

関西電力は加圧型軽水炉(PWR)のユーザーであり、三菱重工との繋がりには歴史がある。三菱重工は革新的軽水炉の決め打ち:SRZ−1200を打ち出している。発注さえあればいつでも動き出せるとのこと。しかもこの原子炉、合理化設計により安全性が格段に高まった上、いわゆるテロ対策の特重施設はもはや不要だというのである。

記事冒頭に挙げたような一連の不祥事や法令違反がなければ、今頃はすでに新規原発建設の具体的な動きが興っていたはずと私は推察する。

なぜなら、今年の5月関電は1兆円を超える規模のIT投資を表明している。大規模データセンター「関西電力サイラスワン株式会社」の設立である。資金調達能力は健在なのである。

1兆円を超える規模となれば、三菱重工の革新的軽水炉の決定打SRZ−1200(120万kW)が2基建造できる。なぜなら三菱重工の想定価格は6200億円なのである。

関西電力は、企業体質、ガバナンスの改善を急ぎ、本来の家業の主軸である原発新設に早急に乗り出し、国家課題であるGX(グリーントランスフォーメーション)実現へのブレイクスルーの役目を果たすべきではないか。

原発新設は、不正のデパートの汚名を一新するだけでなく、何となく曇りがちな日本の原子力の暗雲を振り払う起死回生の一打となるに違いない。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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