ちょっと時間は前後するが、26日にはミシュスチン首相が閣僚会議を開いている。同首相は、「プーチン大統領の指導の下でわれわれは一体とならなければならない」と述べていた。そのシーンが国営放送で放映された。

ちなみに、ロシアの憲法によると、最高指導者は大統領、第2位はミハイル・ミシュスチン首相、第3位は連邦議会のワレンチナ・マトヴィエンコ議長、第4位は下院のヴャチェスラフ・ヴォロージン議長だ。すなわち、プーチン氏に何か生じた場合、ミシュスチン首相が暫定大統領に就任することになる。その首相がテレビのカメラを前に、プーチン氏への忠誠を呼びかけたわけだ。計算された演出だ。

興味深い点は、プリゴジン氏の反乱が進行中、ロシア正規軍内やクレムリン指導者たちは事態を静観し、誰一人としてプリゴジン氏を支援するとか、プーチン大統領に忠誠を宣言する者は出てこなかったことだ。事態が急展開し、勝利者が誰かが判明した後になって、勝利者のもとに集まり出したわけだ。ミシュスチン首相が反乱進行中、プーチン大統領に忠誠を呼び掛けていたならば、その存在は反乱後、一段と輝いていたかもしれない。

以上、「プリゴジン反乱」後、モスクワのソビャニン市長が特別休日とした月曜日の26日、同反乱を巡り、関係者がそれぞれテレビの前や音声で自身のポジションを明らかにしたわけだ。

ロシアに23年間、君臨してきたプーチン大統領にとってプリゴジン反乱は最もドラマチックな出来事となったことは間違いないだろう。欧米メディアは同反乱でプーチン氏の統治力、リーダーシップに陰りが見え出したと受け取っている。

看過できない点は、ウクライナ戦争はプーチン氏のナラティブ(物語)から始まったこと、プリゴジン氏はプーチン氏が育てた民間軍事組織の指導者であったこと、そしてウクライナ戦争ではロシア軍指導部の戦略に不満があるのはプーチン氏はプリゴジン氏と同意見であることだ。

ロシア国防省幹部たちを批判してきたプリゴジン氏は表舞台から姿を消し、独自のナラティブの世界に生きる大統領はそのプレゼンスが薄れてきた。反乱後のロシア情勢で依然変わらないのはロシア正規軍を指導するショイグ国防相、ゲラシモフ軍参謀総長かもしれない。ただ、彼らが今回の反乱を恣意的にコントロールしていたわけではないだろうから、ロシア情勢は反乱後、一層流動的になるだろう。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。