日本企業がアメリカ企業を買収するのは恐ろしく苦労します。それは90年代後半、私がアメリカでゴルフ場の経営、運営を託された時に気がついたのです。「アメリカ人は自分を雇ってくれた人を真のボスだと思うが、途中参戦の我々は単なる監視者でしかない」と。多分、石橋氏も同じ思いをしていたでしょう。しかし、日経ビジネスを読む限り、石橋氏は自分がアメリカにどっぷり浸かり、本社のバックアップという「コミットメント」で彼らの心の奥底をつかんだようです。それがブリヂストンの勝ちストーリーであり、青木が買収したウェスティンは東京本社が腹の据わった「コミットメント」をしなかったことで負け戦となりました。

日本企業による海外企業の買収は極めて多くの事例があり、その多くは失敗、撤退という結果になっています。青木建設も同様です。ではなぜ、お前の不動産開発は成功裡だったのか、といえば私が最初から最後まで一気通貫で面倒を見る機会をくれたからです。その為、自分の全てをそれに賭けることが出来たからです。その気持ちがなければうわべだけの経営となり、従業員や取引先、関係者の心はつかめないのです。ブリヂストンの石橋氏がアメリカに貼り付いて再建にすべてをかけたのも会社が石橋氏に託したからでしょう。

ではアメリカで日常茶飯事行われるM&Aはなぜうまくいくのでしょうか?それは被買収企業の取り込み方が上手で最近は被買収企業のトップを温存するケースが増えていることもあります。また、同じ言語=似た感性を持つ人同士ならば聞く耳を持つということもあるでしょう。ここは非常に難しいのです。例えばセブンイレブンのアメリカ事業はアメリカ人がしっかり掌握しています。悔しいけれど日本人では太刀打ちできる人材はそう多くない、それが実情なのです。

近年、日本企業による海外企業の買収は再び大きく伸びてきています。我々の失敗や苦労が生かされ、日本のマネージメント能力が世界水準となり、世界をリードする、そんな時代を期待したいところです。

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年6月27日の記事より転載させていただきました。