ワグネル軍がモスクワに向かったという情報が流れ、プーチン大統領はモスクワから離れ、自身の故郷、サンクトペテルブルクに大統領用ジェットで向かったと報じられた時、首都を離れたプーチン氏の政治生命はひょっとしたら終わりかという声が聞かれた。一方、欧米指導者はその時点でプリゴジン氏の反乱についてコメントを控え、事態の推移を見守る立場をキープしていた。特に、ワグネル軍がモスクワを制圧した場合、その混乱でロシア軍の核兵器の保管は大丈夫かといった懸念があったのだ。
そして誰もが予想していなかった急転回となった。ロシア軍同士の戦闘という最悪のケースは回避されたことは幸いだったが、冷戦の終焉時、旧東欧共産諸国の共産党政権が次々と打倒され、民主化されていったように、ロシアもいよいよ大変革を迎えたのではないか、と密かに考えていた当方は少々拍子抜けした。
「プリゴジン氏の夏の反乱」は一応幕を閉じた。結果は、プーチン氏の勝利だったのか、それともプリゴジン氏の部分勝利に終わったのだろうか。今回のワグネル軍の反乱でロシア正規軍、国防省の無力さが改めて鮮明化された。モスクワに向け進軍したワグネル軍は5000人規模だった。そのワグネル軍を阻止できず、最終的には同氏の亡命で事を収束させざるを得なくなったわけだ。
プーチン氏は依然、全権力を掌握している点で変化は見られないが、プーチン氏の権力基盤も予想以上に脆弱化していることが明らかになった。
次は、反乱の後始末だ。プーチン氏はプリゴジン氏の背後でモスクワ進軍を後押ししたロシア正規軍内の幹部指導者探しに乗り出すだろう。ひょっとしたら、プリゴジン氏はその名前をプーチン氏に暴露することを約束し、厳罰に処罰されることを避け、亡命というオファーを受けたのかもしれない。プーチン氏のロシア軍指導部の粛清が始まるのではないか。ロシア軍指導部にプーチン大統領に忠実ではない人物がいることが明らかになったからだ。第2の反乱、第3の反乱はもはや避けられない状況だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。