そもそも、米国での住宅市場は全人口の22%程度のベビーブーマー世代(1946~64年生まれ、22年時点で58歳から76歳)が過半数を占め、結婚して子供を持ち始めたミレニアル世代(1980~1996年生まれ、26~42歳)など、若い世代での住宅購入が困難とされてきました。米国勢調査局によれば、55歳以上の住宅保有者の割合は、サブプライム・ローン問題が金融危機の引き金を引いた2008年の39.2%から、2021年には54.2%へ上昇。逆に、35~54歳は2008年の40.7%から2019年に33.8%へ低下していたのです。
全米リアルター協会(NAR)は、2021年に公表したレポートで、「2010年から2020年にかけ、新築住宅は世帯数の増加の他、老朽化した住宅や自然災害で倒壊した住宅の代替に必要な戸数を680万戸下回った」と試算していました。新築住宅建設数の減少は、直近ではコロナ禍が影響したわけですが、それ以外にベビーブーマー世代が保有する住宅を売却せず、購入可能な土地が不足する傾向が挙げられます。2018年に全米最大の高齢者団体AARPが実施した調査では、50歳以上の76%が現在の住居にとどまりたいと回答していました。
マイホームを購入したくてもできない若い世代が増加するなか、住宅市場のひっ迫に合わせ家賃がうなぎ上りの状態となり、一段と家計を圧迫し深刻な影響をもたらしかねません。
オンライン不動産大手レッドフィンによれば、全米の平均提示家賃は5月に前年同月比15.2%上昇し、初めて2,000ドルを突破し2,002ドルとなりました。コロナ前の1,600ドルから、わずか3年で25%も上昇したことになります。米5月消費者物価指数をみても、家賃は前年同月比5.2%上昇し、1986年10月以来の伸びを記録していました。
足元、不動産や住宅建設関連のほかネットフリックスやフェイスブックなどテクノロジー関連企業、テスラなど電気自動車メーカー、ビットコインの急落を受けたフィンテック関連でリストラが相次ぐなか、家賃の上昇は国内総生産(GDP)の約7割を占める個人消費の下押しとなること必至です。
住宅市場の減速に合わせ、家賃の上昇は米国のリセッション入りを連想させます。ただし、住宅市場に関して言えばThis time is different、今回はリーマン・ショック後の時と違って、深刻な調整を招くリスクは小さいと言えそうです。
まず、当時の住宅市場と違って、住宅ローン保有者の信用スコアのうちサブプライム層にあたる620点以下は過去3年平均で2.5%と、サブプライム危機時の12.7%を大きく下回り、健全性が高いと言えます。何より、変動住宅ローン残高が全米の住宅ローンに占める割合は8%程度で、2007年1,310万件(36%)を大きく下回り、金利上昇の影響は限定的です。従って、差し押さえ物件は当時のように急増しそうにありません、
ただし、家賃の観点で言えば需給の観点から高止まりが続く可能性を示唆します。従って、足元はガソリン価格や食料品価格など、他の生活必需品が値下がりしなければ、家賃負担が個人消費に重く圧し掛かる公算が大きい。頭金を用意することが困難となり、まだまだ若い世代にとって、マイホームの購入は叶えるのが難しいアメリカン・ドリームであり続けそうです。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年6月23日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。