また、ステルス戦闘機の要となるのは、ステルス塗料である。「F-22」にレーダー波を当てても、すべてステルス塗料が吸収するがゆえに、レーダーに捕捉されないという仕組みとなっているわけであるが、このステルス塗料には、「磁性材料(フェライト)」と呼ばれる電子素材が使われている。かつて、我が国の電子部品メーカー「TDK」は自衛隊の戦車用にこの塗布材料を開発したが、その技術が、知らぬ間に米国に渡ってしまった、との指摘もある(参考)。
これらの事例をみても、我が国からすれば、共同開発=技術移転の強要と言っても過言ではなかろう。そうした中での日英伊による今次「声明」に対して、通常であれば、米国からの苛烈な“反攻”があるかと思いきや、意外なことに、オースティン米国防長官は日英協力に歓迎の意を表している。しかし、今次「声明」と同時に、「随伴無人機(UAV)の開発は米国と連携する」との情報も発表されている点にも注意が必要である(参考)。
「ウクライナ戦争」でもイラン製やトルコ製の無人機(ドローン)が投入され、「革新的なゲームチェンジャー」とも称されている中で、米国としても、もはや有人戦闘機分野ではなく、無人機(UAV)分野で我が国の技術を狙っているのかもしれない。
また、こうした米国との見えざる“角逐”を踏まえると、英国、イタリアとの間でも同様の“角逐”が起こるものとして備えなければなるまい。
『国家の退場(The Retreat of the State)』(1996年)という著書で有名な英国の国際政治学者スーザン・ストレンジは、ソ連崩壊後のポスト冷戦期におけるグローバリゼーションの進展に伴って発生する問題への対処のために、ヨーロッパと我が国を中心とする勢力形成を主張していた。その著書の中で、ストレンジは同時に、「ピノキオ問題」という提起も行っている(参考)。これは、魔法によって本物の少年となったピノキオが直面した問題であるという。すなわち、もはや人形ではないピノキオを操ってくれる糸はなく、何をすべきかは自分自身で判断し、決断しなければならなくなったというわけだ。まさに米ソ二大対立という冷戦構造が崩壊した中で、各国は米ソが操る糸から自由となり、国際関係をどう生き抜くか、自国の未来をフリーハンドで描けるようになった(描かざるを得なくなった)という当時の国際情勢を反映しての問題提起である。
今回、次期戦闘機の分野において、我が国を縛る米国の糸がなくなったという意味では、我が国は「ピノキオ問題」に直面しているとも言えよう。すでに、英国、イタリアという「新たな糸」が我が国に迫ってはいるものの、まだ我が国自身でこの難局を乗り越える余地は残っている。英国は主力戦闘機「ユーロファイター・タイフーン」の後継機「テンペスト」を2035年までに実戦配備する方針の中で、我が国が「F-2」の後継機に装備せんとするステルス性能や高性能レーダーの技術などを狙っている、という「英国の意図(糸)」を見定めなければなるまい。
また、見定めるべきは外国からの糸だけではない。次期戦闘機の開発費として防衛省は1432億円を概算要求している(参考)。「F-35」の購入費や維持費は、総額で6兆円を超えるとも言われている。単に、技術だけではなく、次期戦闘機を巡る“角逐”は、政界、財界、官界をも巻き込む「マネーゲーム」でもあるのだ。これは、シーメンス事件(1914年)や、ダグラス・グラマン事件(1979年)をみても明らかである。次期戦闘機を巡る国内外での“角逐”につき、防衛費増額とも相まって、新たなる闇が我が国に訪れようとしている。

図表:シーメンス事件の風刺画 (出典:ちとにとせ)
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原田 大靖 株式会社 原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA) 東京理科大学大学院総合科学技術経営研究科(知的財産戦略専攻)修了。外交・国際問題に関するシンクタンクや私立中学・高校での教職経験を経て、2021年4月より現職。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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