追加で、このケースを報じる「東洋経済」誌の記事に気になる記述があったのでこれに言及しておく(「大手損保4社が企業向け保険でカルテルの疑い」)。
「そもそも損保業界は、大手4社が正味収入保険料で9割超のシェアを持つ寡占状態にあ」り、「中小損保では大企業との取引のリスクを抱えきれないことが多いため、大手損保4社が契約を引き受けざるを得ない面もある」。そして「その実情を逆手に取り、さらに裏で価格カルテルも結びながら、「これより安い保険料では、契約の引き受け手がいない」といった契約交渉をしていたのであれば、独占禁止法違反となる「優越的地位の濫用」に当たる可能性もある」と、そこでは指摘されている。
競争優位にある事業者が価格交渉力を持つのは当然であり、それ自体を問題視するのは競争の否定である(そういう批判がこの違反類型への典型である)。自由市場の論理の下、規模の観点から引き受ける保険会社が限定されている実情にあるとしても、それ自体は独占禁止法のターゲットではない。取引関係上の力の格差を利用して取引相手の自主性、独立性を侵害するような状況をもたらすときに発動されるのがこの規制である。高料金の押し付けについては、カルテルが違法ならばそこで規範的に評価されているはずだ。
現時点では、カルテルの被害者とされる業者は1社である。それでは市場の広がりがなく競争制限の認定に支障をきたすという独占禁止法側の事情があるのであれば、この類型の発動も視野に入るのかもしれない。ただ、ここでは「違和感がある」とだけコメントしておこう。