帝王切開で生まれた赤ちゃんを二つのグループに分けて、母親の膣内細菌を移植したグループとそうでないグループの脳の発達を比較した論文だ。日本では絶対に倫理委員会が了解しないような研究内容だ。自然分娩では膣内を通過する際に、母親の膣内細菌が赤ちゃんに触れることになるが、帝王切開だとそれがなく、その結果として腸内細菌叢の構築に違いが出るようだ。
ホンマかいなと思いつつ、自然分娩と帝王切開で生まれた子供の脳の発達に差があるのかどうかを調べたところ、2019年のJAMA-Network Open誌に2千万人に上る出産を比較したデータが報告されていた。
帝王切開では自然分娩に比して、自閉症スペクトラム(ASD)のリスクが1.33倍高く、注意欠陥多動性障害(ADHD)のリスクが1.17倍高いと報告されていた。この2項目は統計学的にも有意な差があった。といっても、この結果から膣内細菌の移植には大きな飛躍があるので、なかなか私のような平凡な研究者には思いつかないアイデアだ。帝王切開に至るには、それなりの課題があるので、なかなか思いつかない発想だ。
しかし、彼らの基準で脳の発達を調べたところ、6か月後の脳の発達には膣内細菌移植群と非移植群の帝王切開出生児間で差があったという。話の流れからわかるように、細菌移植群が発達がよかった。本当にあっと驚く細菌、恐るべしだ。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年6月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。