「監視対象国」から除外された日本、主要貿易相手国ではない?
最新版で日本が「監視対象国」から除外された結果、主要貿易相手国に関する分析・評価の枠の記述からも見当たらなくなりました。一部でこれが取り沙汰されていますが。基本的に「監視対象国」でなくなれば、ここで取り上げられないのですよ。例えば、2022年11月分で監視リスト外となったインド、イタリア、メキシコ、タイについての表記はありませんでした。
為替報告書の位置づけ、バイデン政権で変化も?ここからが本題ですが、トランプ前政権が為替報告書を通商圧力の手段として扱った一方で、バイデン政権は中国を念頭に人権問題を軸に同志国との連携を深めてきた結果、為替報告書の位置づけが変わった可能性があります。つまり、貿易相手国への交渉のレバレッジとして活用するのではなく、同志国とそうでない相手国との線引きを測る指標になったのではないでしょうか。その一つの証左として、2021年12月公表分から、3つの条件の2つを修正してきました。1つは経常収支で、これまでの「経常黒字が当該国GDP比3%超」に「または、(GERAF)を用いて財務省が実質的に経常収支ギャップがあると推定した場合」が加えられ、2つ目に為替介入の基準に「過去12カ月間のうち8カ月以上の介入、及びGDP比2%以上の介入総額」と、8カ月以上という条件を追加しています。特に為替介入については、為替操作国認定のハードルが上がったとも捉えられます。2カ月しか為替介入していない日本にとっては、特に安堵する変更点です。
画像:米財務省、2021年12月分で3条件のうち2つの修正を発表
(出所:U.S. Treasury)
日米関係でいえば、G7やG20、台湾問題、インド太平洋、インド太平洋経済枠組み(IPEF)などでの協力はもちろん、日本が環太平洋パートナーシップ(TPP)や地域的な包括的経済連携(RCEP)の2つに加盟する事情もあり、米国にとって重要な同盟国という位置づけと考えられます。何より、日米首脳会談では経済安全保障の協力の具体化で一致したほか、広島G7で個別声明にて「経済的強靭性及び経済安全保障に関するG7首脳声明」が公表され、連携する上での共通の責任についても明記されていました。実際、足元でマイクロン・テクノロジーは政府の補助金を受け、広島工場への5,000億円投資を決定し、インテルは理研と次世代コンピューティング分野の共同研究に向けて連携し、マイクロソフトも神戸に日本初のIoT・AI開発拠点を開設するという状況で、民間を含め日米関係の深化を物語ります。
逆に言えば、バイデン政権としても円相場の安定が米国の利益につながると言えるのではないでしょうか。そういう意味で、日本が「監視対象国」から除外された意義は、意外と大きいのではと推察します。2022年の貿易相手国別の貿易額比率でみても、日本は4.3%と2015年の5.2%から低下しつつ、4位を維持していますし、日本の地位が低下したというのは、言い過ぎな印象は否めません。ちなみに、中国は対中追加関税継続に加えゼロ・コロナ政策の影響を受けたのか、2015年の16%の1位から、2022年は13.2%で3位へランクダウンしていました。
チャート:チャートの国順は、2022年の貿易額ランキング1~10位を表す
(作成:My Big Apple NY)
ところで、お気づきかもしれませんが為替報告書についてウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙を始めCNBCなど、米国及び海外メディアではそれほど取り扱っていません。日本と海外との為替問題における温度差を感じます。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年6月20日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。