だが、この韓国産のイチゴとして発表された「雪香(ソルヒャン)」というイチゴは、元々、日本の「章姫(あきひめ)」と「レッドパール」をかけ合わせてできたものだ。1990年代、「章姫」と「レッドパール」の育成権者が期間限定で、契約者のみの利用という条件で、韓国の生産者に許諾したものが、日本の育成権者に無断で、拡散し、その後、「雪香」という名前で韓国で品種登録された。

また、日本の超高級ブドウ「ルビーロマン」が韓国で勝手に栽培され、流通されている。ルビーロマンは、石川県砂丘地農業研究センターが14年間かけて開発し、2008年に市場デビューしたもので、粒が大きく鮮やかな紅色で、2022年の初競りでは1房150万円の値が付いたほどだ。1粒20グラム以上、糖度18度以上、均一な着色といった厳格な出荷基準がある。

石川県が2022年、韓国内で購入した商品をDNA鑑定したところ、遺伝子型が石川県が開発したものと一致した。国際法上、日本で最初に流通して6年以内であれば韓国でも品種保護の出願が可能だったが、石川県は期間内に出願しなかったため、韓国では誰でも申告すれば生産・販売できる状態となり、これまでに25の農業法人などが申告を済ませている。日本のルビーロマンの特徴は、色づきが均質で房の形が整っているのに対し、韓国産のは色づきが悪く、房の形が整っておらず、隙間だらけと言う。

中国でも日本のイチゴや高級ブドウが無断で栽培

春節直前の中国では、高級イチゴがよく売れ、日本の「紅ほっぺ」が60~70粒で約4,000円~5,000円という高値で取引されている。赤い粒が揃ってきれいな高級イチゴは中国でも人気商品だ。また高級ブドウの「シャインマスカット」も高価な贈答用品として販売されている。一見すると日本からの輸入物と見間違うが、実際には、「紅ほっぺ」も「シャインマスカット」も日本から無断で持ち出された苗木で栽培されたものだ。

こうした無断栽培だけではなく、ブランド名の無断使用の問題もある。中国では「晴王」という名前の「シャインマスカット」があるが、「晴王」は元々、日本のJA全農おかやまが使用しているブランド名だ。JA全農おかやまは、その後、中国での商標登録を行い、長い努力の末に認められた。

このように一応の成果を上げた例もあるが、厖大な量の中国産イチゴや高級ブドウが中国市場を席捲しており、最近では、本来、輸出が禁止されているシイタケの種菌でさえ、無断流出していることが発覚するなど、すべてを摘発し排除することは容易なことではない。

農水省の海外流出防止政策

農水省は、農作物の新品種の海外流出防止に向けて、育成者権の管理や国内外の違法事例の監視などを育成者に代わって専任で担う「育成者権管理機関」を2023年度中にも立ち上げる。その機関は品種開発や輸出促進、国内農業の振興などに携わる複数の民間が参画した中立的な組織であり、生産者からの許諾料収入を運営の原資とし、一部を育成者にも還元することで、育成者の品種開発への投資を促進する。

フランスでは、民間機関SICASOV(シカソフ)が国内外の4,400品種を管理し、年間100億円程度の許諾料収入を得ている。日本においても、こうした機関のいち早い設置と実効性ある防止策が期待されている。(参考:『日本農業新聞』など)

藤谷 昌敏 1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学客員教授(危機管理論)。主要著書(共著)に『第3世代のサービスイノベーション』(社会評論社)、論文に「我が国に対するインテリジェンス活動にどう対応するのか」(本誌『季報』Vol.78-83に連載)がある。

編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年6月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。