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政策提言委員・金沢工業大学客員教授 藤谷 昌敏

世界的な穀倉地帯であるロシアとウクライナの戦争が起きた2022年以降、食料が行きわたらない途上国が増え、記録的な飢餓人口が急増した。熱波や洪水といった気象災害の多発も加わり、各国の食料囲い込みの動きも加速した。ほかにも経済ショック、肥料の価格高騰などが重なり、かつてないほどの食糧危機に直面している。

現在、世界では8億2,800万人の人びとが飢餓に苦しんでおり、新型コロナ流行以来、1億5,000万人の飢餓人口が増加している。特に食料自給率(令和3年度、カロリーベース)が38%に過ぎない日本にとって食糧危機は深刻な影響をもたらすことになる。

こうした問題の解決のためには、農業の「生産性向上」と「持続可能性」を両立させる必要がある。環境に配慮することを優先する専門家は有機栽培などを取り入れた持続可能な農業を積極的に取り入れることを主張するが、反面、それでは生産性向上に逆行するとの意見もあり、両立は簡単ではない。

こうした中、日本政府は不測の事態に備え、「食料・農業・農村基本法」(平成11年7月施行)を制定し、その中で食糧生産の増大を基本として食糧の安定的確保と供給を第一と考え、輸入、備蓄、生産の3要素を適切に組み合わせるべきだとしている。

中でも第4条は、「国民が最低限度必要とする食料は、凶作、輸入の途絶等の不測の要因により国内における需給が相当の期間著しくひっ迫し、又はひっ迫するおそれがある場合においても、国民生活の安定及び国民経済の円滑な運営に著しい支障を生じないよう、供給の確保が図られなければならない」として、「食糧安全保障」を明確化していた。

近年、こうした食糧需給の問題とは別に、中国、韓国などにイチゴやマスカット、和牛などの日本独自の高品質な農産物が外国に流出し、現地で大量に生産されて、逆に中国、韓国から日本に輸出されるという大きな問題が生じている。

これは、今まで「知的財産」の問題として捉えられてきたが、単に農業の問題だけではなく、これも「食糧安全保障」として取り上げるべき重要な事態だと考える。すなわち、国益が侵害され、大きな損害が生じている以上、不測の事態に備える経済安全保障の課題と捉えるべきだからだ。

韓国で日本原産の果実が無断で栽培・流通

日本原産のイチゴ、ブドウ、モモ、牛肉など、付加価値が高い農産物・畜産物が世界に輸出され、高額にもかかわらず世界で珍重されている。こうした日本の農産物に目を付け、勝手に栽培・畜産しているのが韓国だ。

韓国では、農村振興庁が2022年1月3日、「韓国産のイチゴ品種の普及率が昨年9月時点で過去最高の96.3%を記録した」と発表した。