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先日、30年来の仕事上の付き合いがある男4人で食事をしました。いわゆる戦友であり、リタイアした人、リタイアしかかっている人など様々ですが、どの人もその分野では一目置かれる人たちばかりです。そんな時、ふと思ったのです。気を許すと会話のペースから外れる、と。

どういうことかと言えばこちらの人は自己主張が非常に強いのです。特に仕事に直接関係のない話になると「俺にも喋らせろ」状態で複数の人が会話を重ねることもしばしばあります。これが私が31年間カナダで暮らす中での苦手な部分なのです。

実は私も結構トーキー(よくしゃべる)なのですが、相手が自分に聞く耳を持たないこのような雑談の場合には聞いてくれるような「はっとする」切り口を出さないと全然スルーされてしまうのです。

と言うことはトークの技術と喋るネタを大量に持ち合わせていなくてはいけないのです。例えば今回の会話でも「〇通りと〇通りのところにある建物の再開発の話、知っているか?」「あの建物は〇〇が持っていたよな」「ところがその隣に曲者の△△が持っている土地があってあれが難しいらしい」「あのファミリーか。それなら納得できるな。ありゃ酷いんだよ、昔から…」と言った具合の会話は私にはディープすぎて入り込めないのです。

バンクーバーのような小さな街で社会人人生を過ごす場合、専門分野の情報量は半端ではないのです。どうやって知るか、と言えばそんなことはメディアには出てこないので普段の人との接触から得る情報と言うことになります。我々からすれば話が深すぎて話について行けないわけです。

では駐在員の場合はどうなのでしょうか? 日本国内で海外赴任要員の英語レッスンが花盛りで無数の会社がサービスを提供していており、完全なるレッドオーシャン状態。わが社こそ、という特徴を携えてやるわけですが、結局どれも同じなのです。

実を言うと私も大卒で入社した際、「海外赴任を拒まず」という書類に署名させられ、4月から7月までの3か月間、会社に一切行かず、給与をもらいながら英語学校で特訓を受けました。全新入社員が対象です。今思えばずいぶん素晴らしい会社だったと思います。ですが、その3か月の英語特訓の効果はほぼゼロだったと思います。

私がバンクーバーに駐在員で赴任した際、しばらくして英語に疲れ、シアトルにいた先輩社員に愚痴を言ったことがあります。「英語がわからん!」と。なにせ毎日200枚ぐらい来るリーガルドキュメントのレビューに一日の3/4を費やす日々です。特殊な法律文書に頭がクラクラしていたのです。私から見れば、英語で日常会話が出来る人が「英語が出来ます」と言うのはエクセルシートに生データを入れるぐらいのレベルなのです。

英語で仕事ができるようになるにはまずその業種、業界の独特の言い回しを覚えることから始めるわけで日本の汎用型の英語レッスンでそんなことは絶対に教えられることはないのです。敢えて言うなら海外駐在のための「ウォームアップ」「気休め」程度だと考えてよいと思います。本当の実力がつくかどうかは現地にきて英語だけの世界に入り込み、涙が出るほど苦労しないとうまくなることはありません。

私はかつて「駐在員 3年たって一人前、されど4年で帰国させる日本企業」という話をしたことがあります。駐在員1年目は英語をみっちり、2年目が地元の友人作り、3年目が社会を知ることでようやく「あの人も仕事ができるようになったねぇ」なんです。

日本の若者で英語が比較的上手な方を時々お見掛けします。その場合も2通りあってもともと英語脳というセンスをお持ちの方、もう一つはかつて帰国子女経験者か留学経験がある人です。私は時たま接する英語が上手な方には「あなたはカラオケが好きですか?」とよく聞くのです。概ね英語とカラオケには相関関係があります。理由は英語を音で聞くのです。一つの文章を音符の流れのように聞き、文章をブロックの塊のようにして覚え、発音もしっかり聞き取れるのです。