残念ながら、その後も地中海では多くの難民が犠牲となっている。国連によると、2014年以降、地中海で2万人以上の難民が死亡した。今年2月末、イタリア南部沖でボート事故があり、少なくとも90人が死亡したばかりだ。

ちなみに、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が14日、公表した年次報告書「Global Trendsレポート2022年」によると、今年5月末時点で世界で推定1億0840万人の難民、国内避難民がいる。前年比で1910万人が増え、過去最高を記録した。ウクライナ戦争やスーダンでの軍部指導者間の紛争で多くの避難民、難民が新たに発生している。例えば、スーダンでは暴動発生以来、既に190万人が避難している。

グランディ国連難民高等弁務官は、「難民の数は壊滅的だ。私たちの世界の現状に対する告発だ」という。同弁務官は、「国連難民条約に合致する難民に対しては全ての国は受け入れる義務があるが、現実は、合法的な移住ルートがないために難民が殺到する一部の保護国に多くの負担がかかっている」と指摘している。

EUは8日の内相理事会で、移民・難民受け入れの負担を分担することでようやく合意した。イタリアやギリシャなど地中海沿岸国は海から渡ってくる難民への対応で他の国々の支援を求めてきた。具体的には、各国が受け入れる移民・難民の人数枠を設けるが、受け入れを拒否する国はその代わりに、受け入れ国に1人当たり約2万ユーロの現金や資材、人材を提供すると定めている。

なお、ドイツのショルツ首相はギリシャ沖での難民ボート事故について、「気が滅入る惨事だ。難民がこうした危険な逃げ道を選ばないように願ってきた」と強調し、難民、移民に対する欧州共通の「対処システム」を実施することで惨事を避けていかなければならない」と述べている(独週刊紙ツァイト・オンライン6月15日)。

なお、アテネやテッサロニキなどギリシャの都市で15日、市民たちが難民ボート事故の犠牲者を慰霊する一方、参加者の一部は「事故の責任の一端はEUにある」と非難した。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。