台湾では2004年より保険証が「全民健康保険 IC カード」に切り替わり医療情報がデジタルで管理されるようになりました。日本では、マイナ保険証の制度を作るに当たり、この台湾のデジタル保険証の仕組みを参考にしていると思われます。今回は、台湾の制度を参考にして、デジタル保険証がどうあるべきかについて考えてみます。

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1. デジタル保険証には保険証番号が印字されるべきである

台湾のデジタル保険証には全民健康保険証番号が印字されています。日本のマイナ保険証には、保険証データが何も印字されていません。そのため、カードリーダー等の故障が生じた時には、保険証のデータが全く取得できません。マイナ保険証を持参しても10割負担となってしまうことが有り得るのです。実際に10割負担になったケースが多数報告されています。

日本においてはデジタル保険証をマイナカードとは別に発行し、そこにマイナンバーとは別の生涯不変のマイメディカルナンバーを印字しておくことが望ましいと考えられます。故障の場合には、マイメディカルナンバーでレセプト請求可能というルールにすれば、10割負担を回避することができます。

2. ICカードは2~3種類の方が望ましい

ICカードは1種類にまとめず、2~3枚に分けることが望ましいと私は考えます。フランスでは、電子健康保険カード、国家身分証明カード、日常生活カードの3種類のICカードが使用されています。オーストラリアでは、ICカードではありませんが、納税者番号(TFN)とは別に医療分野に利用が限定された ID(Healthcare Identifiers)が発行されています。

日本ではマイナカードとは別にデジタル保険証ICカードを作るべきです。台湾では、すべてのデータが管理できる数位身分識別証(New eID)カードの導入が検討されましたが、セキュリティの観点から反対意見が多く、導入は頓挫しているようです。日本政府は、1つのICカードに様々な機能を集約することのリスクが理解できていません。

カードを2種類にしておいた方がカード紛失時の対応も容易です。マイナカードは家で保管して、デジタル保険証を持ち歩くことにすれば、後者を紛失した時には前者を用いて後者を容易に再発行できます。

3. 台湾ではカードが3枚揃わないと医療情報は取得できない

台湾の場合は、A. 患者のカード、B. 医療機関の職員のカード、C. 医療機関自体のカード、の3種類のカードが揃わないと医療データが取得できません。また、医療データが閲覧されたり変更されたりした時の履歴は、患者本人がスマホで確認できるようになっています。つまり、どこの医療機関のどの職員が自分の医療データを閲覧したかが簡単に分かるようになっているのです。

日本でも同様の仕組みを作るべきです。このような仕組みがあれば、情報漏洩の心配がなくなります。希望する人には、医療データの閲覧・変更がある場合は患者本人にe-mailで連絡が届くようにすれば更に安心です。

4. デジタル保険証には電子証明書は使用しない方がよい

電子証明書の使用はマイナカードのみにして、 デジタル保険証では電子証明書は使用しない方が望ましいと私は考えます。電子証明書の有効期間は5年間です。乳幼児から寝たきりの高齢者まで、役所に出向いて5年に1回電子証明書を更新させるのは無理があります。デジタル保険証の場合、台湾のように3種類のカードが揃わないと医療データを取得できないようにすれば、十分なセキュリティが確保できます。

患者のICカードには、クレジットカードの3桁のセキュリティコードに相当するものを、カードには印字はせずにICチップ内のみに設定しておけばよいのです。電子証明書を使うとすれば、3種類のカードのうち医療機関自体のICカードのみに電子証明書を持たせればそれで十分です。

どうしても患者のICカードに電子証明書を使用したいのであれば、コンビニで電子証明書の更新ができる仕組みを作るべきです。ICカードの維持や更新が国民の負担にならないようにすることが大切です。

デジタル保険証の普及のためには、維持・更新の負担が従来の保険証のそれと同程度になることが望まれます。役所に出向くのは最初の1回のみにして、以降は従来の保険証のように期限が切れたら自宅に郵送されるようにするべきです。写真はスマホで送信すればよいです。

最初の1回も、高齢者施設の入所者や乳幼児の場合は役所に出向くことが困難な場合があります。そのような場合は、役所に出向かなくてもデジタル保険証を作れるといった特例を認めるべきと、私は考えます。ネット送信が難しい高齢者には、写真更新の免除という特例も望まれます。

台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン氏は、普及させるポイントは「一番使いづらい人にあわせること」と助言してます。デジタル保険証は高齢者やIT弱者に優しいものでなければなりません。