凄惨をきわめる残酷な児童虐待事件が発覚して捜査の手が及ぶと、33歳の女の複雑怪奇な身分詐称が明らかになった。逃亡先の地で13歳の少年に成りすまし周囲を完全に欺いていたのだ――。
13歳の養女が実は33歳の成人女性
2007年、母親による恐るべき児童虐待事件がチェコ全土に衝撃を与えた。
聴覚障害のある8歳の息子を階段の下の窓のないスペースに裸にして監禁して殴る蹴るの暴行を加え、満足に水や食事も与えず自分の吐いたものを食べさせ、皮膚にタバコの火を押しつけたりするなどの虐待を繰り返していた狂った母親、クララ・マウエロバの児童虐待が発覚したのである。後の裁判ではクララたちが少年の肉の一部を削いで食べていたことも明らかになり世に大きな衝撃を与えた。
母親は逮捕され、虐待の被害者をはじめとする子供たちは保護されたのだが、家族のメンバーの1人である13歳の養女、アニカの行方がわからなくなっていた。警察はチェコ全土にアニカの捜索を手配した。
捜査が進むと事件は複雑な様相を見せはじめた。この家族に養子として引き取られたアニカの出自を示す記録がどこにも見つからなかったのだ。戸籍記録上、このアニカという少女は存在しない人物ということになる。
警察がアニカの身元をさらに調べ上げると、この少女は驚くべきことに実は33歳のバルボラ・スクロウバという成人女性であることが判明したのだ。

2人の息子の母親であるクララはかつて大学で教育学を学んでいたのだが、この時にアニカと名乗るバルボラ・スクロウバと出会った。バルボラには下垂体機能低下症(hypopituitarism)の症状があり、この症状に特徴的な童顔であったため少女に扮することができたのだ。この出会いで2人にどのような合意が形成されたのか詳しくは分からないが、クララはアニカを家庭に招き養子にしたのだった。
こうしてクララの家庭に入り込んだアニカだったが、クララとアニカには共通点があった。それはカルト宗教の信者であったことだ。アニカ(スクロウバ)の父はカルト宗教の指導者であったのだ。
クララは精神疾患に苦しんでいたのだが、アニカはそれを巧みに利用し、聴覚障害のある息子に肉体的試練を与えて“治療”するように促して虐待を行わせたのだった。
クララは監禁した息子を監視するためにカメラを設置し常にモニターに映していたのだが、ある日に同じシステムを防犯用に使っていた隣人のモニターに電波が混信し、監禁されている悲惨な少年の姿が映った。隣人は警察に通報し、この残酷極まりない児童虐待事件が明るみになったのである。
