この大学教授の解説は「そうは言ってもマスク氏は何時かは払うのだろう。今は無い袖は振れないという話であとで金利をつけて払うということに落ち着くのではないか」と。

そりゃそうです。テスラをローンで買った客が途中で「不完備契約」が生じたのでローンは払わないけれど車は俺のもの、という理論がまかり通らないとも限らないのです。もちろん自動車ローンあたりは「完備契約(あらゆる事象が完全に網羅されている契約)」に近いからこれは空想の論理でしょう。マスク氏がツィッター社は潰れるかも、なら大家も支払いを待て、と言うのはどちらかと言えばパワーゲームのような気もします。

私が懸念しているのはツィッター社が正々堂々と賃料未払いを積み上げる行為をすれば他の会社も真似をする点なのです。ゴールドマンサックスの今年1-3月の支払い延滞額は1170億円、アメリカの銀行全体では1.8兆円ぐらいになるとされます。かつては払えなければ大家は鍵をロックし、アクセス出来なくしました。今はそういう強硬策は鳴りを潜めています。

個人的には私が不動産業だから賃料未払いは論外だ、というより現代社会が自己都合の理論を振り回す傾向が無きにしも非ずだという懸念が大きいのです。ユニバーサルなルール、道徳観が本来あるべきで、その下に国や各行政府における法律やルールが存在してきたのが人間社会の規範です。

道徳やモラルが先行したのが「良き英国時代」だったとすれば、アメリカの時代になり個々相違する常識観を縛るのが法律である、という発想のもと、訴訟社会を経て判例主義になりました。その判例も時代と共に変化するため、昨日の常識は今日の非常識、とまではいかないまでも確実に変化してきている、その好例が今回取り上げた問題ではないか、と感じるのです。

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年6月15日の記事より転載させていただきました。